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□sugar
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言うなればそう、甘さだ。
砂糖の甘さ。


常温で、遂に勝手に溶けて滲み出してしまった、そんな甘さ。





【sugar 1015】





「…あとべ、どしたの?」
「…ん?」

中間考査、最終日。
考査中で出席番号順の席に戻っているから、真ん前はジローだ。
携帯の画面から視線を上げると、

「顔、にやけてるよ?」
「!!」

ずばりと指摘を受け、頬が一瞬で熱くなった。

「…うそ。にやけるまではいかないかな〜。なんつうの? 微笑む?」
「…そうかよ」
「なァにがあったのかしんないけどさー…」

跡部は息を吐き出し、まぁ良いだろうと携帯を閉じる…、が、

「そっか。おしたりか」
「んなっ、違ぇよ!!」

いきなりの爆弾に慌てて嘘を吐いた。

「ふぅ〜ん?」
「…んだよ」
「まぁいっか。侑ちゃんたんじょ〜びだし特別にメールくらいは許す〜」
「って、許すも何もねぇだろ…」

釈然としない様子だった慈郎は、恐いくらいににっこりと笑って妥協する。そして、あと3教科がんばろ〜ね〜と手を振って前に向き直った。
少しして予鈴が鳴り、廊下の鞄に電源を切った携帯を放り込む。


忍足侑士
本文:
[Happy Birthday to ME]


某バカ足侑士からの不可思議なメールが届いたのは、中間考査も最終日の朝。



 *



あー、もう。

…なしてこんなときに中間なんかとカブるかなぁ…。

口には出さず、机に上体をべたりと付けて嘆いた。
ギャグ漫画なら机の上に涙の池が出来ているに違いない。

レ・ミゼラブル。ああ無情。
教室の中心で無情を叫ぶ。

跡部いわくバカ足、もとい忍足侑士は、跡部にお触り禁止の直令(笑)を受けて既に七日を数える。
何においてもトップを目指す努力を欠かさない跡部は、考査期間ともなれば、生徒会長かつテニス部部長から、たちまち眼鏡の優等生に様変わりする。
普段は眼鏡は授業中しか使用しないという珍しい姿の跡部を拝める、イコール跡部が勉強に集中する、イコール…。
忍足にとっては、テスト週間イコール跡部に構ってもらえない週間である。
当然、泣きたくもなる。
折角の土日だというのに考査がかかっているとあっては跡部の首が縦に振られる筈もなく。お泊り(に来て貰う)計画はサヨウナラ。しかも今日は誕生日だというのに。
つい我慢し切れなくて今朝はメールしてしまったが、まだ返信はないので、見てくれているのかどうかさえも判らない。
こんなときは特に、互いの教室が離れている事が悔やまれる。
だが、こんな苦悩も(ひとまずは)今日で終わりだ。何故なら今日は試験最終日なのだから。

中間考査、残り十数分。
解き終わってしまった解答用紙を裏返し、これからどうするかを考える。
何を言おう。
どう振る舞おう。
一週間前が嘘のように遠い気がする。久し振りすぎて、いつも通りに出来るだろうか。いや、そもそもいつも通りとはどんなものだっただろう。
其れすらも忘れてしまいそうな程、此の一週間は長かった。本当に長かった。



カチリ。
ペンを走らせる音だけが継続する教室に、一際目立つ音。
長針がまた一つ時を刻む。


 *
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