text

□キミとの四季。
8ページ/16ページ











Last Christmas I give you my heart...






『聖夜の終わるとき』





其の日、美しく飾り付けられた街が、最も輝く日。
絶え間なく聴覚をくすぐるクリスマスソングが、恋人たちにとっては最高のBGM…なのだろうか?
救世主誕生の前夜を祝う日は、此の世界の東端の島国で今日、本来の意味とは多少ズレたイベントと化している。
親子連れ等で賑わっていたであろう街も、世が更けるにつれ、何処を見ても腕を組んだり手を繋いだりといった恋人たちばかり。
自らもその人混みの一部となって流れる中で、行き交う人々が視界に溢れる。少々げんなりして、跡部は其の真白のマフラーに口を埋め、小さく息を吐いた。

「景ちゃん、疲れたん?」

と、即座に隣を歩く男から声が掛けられる。見られていただろうか。折角こうしてクリスマスにふたりで居られるというのに、溜息なんて吐いてしまっていたのを。
跡部は気まずく感じて、何でもないという様に

「…別に」

そう返した。だが、

「…。ちょっと右手出してみ?」
「何だよ?」

この寒いのに、と訝りつつ、コートのポケットから右手を出すと、外気によって瞬時に冷やされた指先がひりついた。
僅かながら顔をしかめようとした其のとき、右横から、視界に左掌がすっと差し出される。

「手ぇ、乗せて?」

其の掌の持ち主は言うまでもなく。
跡部が言われる侭に右手を重ねると、途端に進路が変更され、通りを左へと曲がる。

「ちょっ、忍足!」
「うん、結構えぇ時間やね」

お構い無しに携帯を取り出し、時間を確認。

「何処行くんだよ!」
「人のおらへんトコ」

前を行く忍足は突然ぴたりと立ち止まり、振り返ってそう言った。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ