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□キミとの四季。
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Last Christmas I give you my heart...
『聖夜の終わるとき』
其の日、美しく飾り付けられた街が、最も輝く日。
絶え間なく聴覚をくすぐるクリスマスソングが、恋人たちにとっては最高のBGM…なのだろうか?
救世主誕生の前夜を祝う日は、此の世界の東端の島国で今日、本来の意味とは多少ズレたイベントと化している。
親子連れ等で賑わっていたであろう街も、世が更けるにつれ、何処を見ても腕を組んだり手を繋いだりといった恋人たちばかり。
自らもその人混みの一部となって流れる中で、行き交う人々が視界に溢れる。少々げんなりして、跡部は其の真白のマフラーに口を埋め、小さく息を吐いた。
「景ちゃん、疲れたん?」
と、即座に隣を歩く男から声が掛けられる。見られていただろうか。折角こうしてクリスマスにふたりで居られるというのに、溜息なんて吐いてしまっていたのを。
跡部は気まずく感じて、何でもないという様に
「…別に」
そう返した。だが、
「…。ちょっと右手出してみ?」
「何だよ?」
この寒いのに、と訝りつつ、コートのポケットから右手を出すと、外気によって瞬時に冷やされた指先がひりついた。
僅かながら顔をしかめようとした其のとき、右横から、視界に左掌がすっと差し出される。
「手ぇ、乗せて?」
其の掌の持ち主は言うまでもなく。
跡部が言われる侭に右手を重ねると、途端に進路が変更され、通りを左へと曲がる。
「ちょっ、忍足!」
「うん、結構えぇ時間やね」
お構い無しに携帯を取り出し、時間を確認。
「何処行くんだよ!」
「人のおらへんトコ」
前を行く忍足は突然ぴたりと立ち止まり、振り返ってそう言った。
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