text
□キミとの四季。
6ページ/16ページ
この世をば
我が世とぞ思ふ
望月の
欠けたることも
なしと思えば
藤原道長
『仲秋の月夜』
今日、仲秋の名月やねんで?
知っとった? そう問えば、ソファの上、薄い洋書に目を通しながら隣に掛ける彼から、当たり前だろうと言わんばかりの怪訝な視線が向けられる。
「せやけど残念やわ、」
「お月さん、隠れてもうてる」
照明を落とした部屋の中から、カーテンを引いていない硝子戸、ベランダとを仕切る其れ越しに、灰雲に覆われた空を見て。
「見られんの恥ずかしいんやろか」
言って、細い肩へと腕を伸ばし、抱き込む様にして襟元から覗く白磁の首筋にそぅと口吻ける。
「…ッ馬鹿、止めっ」
「なん? 景吾も恥ずかしいん?」
「なっ…!」
言い返そうとしたのか、思い切り此方を向き直る彼の、唇を己の其れで刹那掠めて。
「此の侭ヤってもええの?」
「……ッ!」
耳元で低く呟けば、腕の中に有る華奢な身体がびくりと震えた。
「…冗談やて、」
明日学校やしな、と笑って、其の背を指先で軽くぽんぽんと叩くと、綺麗に歪められたのだろう口許から、小さく舌打ちが聞こえる。
「期待した?」
「するか。馬鹿」
胸元をぐいぐいと押し退けながら呟かれて、苦笑を漏らした。
.