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□キミとの四季。
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「あんな、線香花火に同時に火点けるやん?」

ぱちぱち…と弾ける先端を見詰めていると、忍足が不意に口を開く。
「…あ、」

ぽとり、落ちた其れに小さく声が零れた。
一度目を見開いて、それから、子供みたいやね…と笑いながら、ポケットからライターを取り出し、続ける。

「で、同時に落ちたら…」
「落ちたら…何だよ?」

其の前に発せられた単語に眉根を寄せるも、不意に黙った忍足に先を促す。
だが返されたのは微笑み。

「取り敢えず…やってみよか」
「え…、ちょ、」

言いながら最後の二本、線香花火を地面に置いた袋の上から拾い上げ、ライターで火を点ける。
止める間も無く、ハイと差し出されれば、先端が落ちないようにそぅと受け取るしか無くて。

間も無く、同じ様にぱちぱちと華弁を散らすふたつの光。
眺めるうち、

「御免な? 子供みたいて、そういう意味と違うねん」
「…何がだよ」
「可愛えなぁ、ってそういう意味」
「…今更訂正すんな、馬鹿」
「そら…堪忍な、」

互いの方へと傾けていた注意を、手元に戻した。
そうして、

「…」「…あ、」

ぽとり、ふたつの華が散る。



「同時に落ちたら…?」

もう一度、問う。
忍足は長く長く息を吐いて、ゆるりと此方を向いた。
其の表情に、仄かな笑みを湛えて。

「其の人が、運命の人やねんて」

暫しの、沈黙。

「…なんてな、今作ってん」

そして途端破顔する。

「……はぁ?!」
「そうやったら、えぇなぁ、て」

一体何を言い出すのか。
少しの間思考が付いて行かなくて、そうして、ふと思い付く。

「…片付けるか」
「…そう、やね」




後に何も残していないかもう一度振り返り、歩き出す直前、言った。

「さっきの…、本当はどうだか教えてやろうか?」
「…なん?」



「帰るまで、俺様の右手を貸してやるんだよ、」


相手は直ぐに其の意図を察したのか、一瞬の後互いに笑みが零れる。

「其れ…今作ったやろ?」
「さっきだ、馬鹿」
「変われへんわ…」
「文句有るなら良いんだが?」
「いえいえ、有り難くお借り致しますよ?」

互いの表情が、綻ぶ。


月明かりの元、伸びたふたつの影が、ひとつに、繋がっていた。





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