text

□What you want.
2ページ/3ページ



正しくは、今日が其の『何か』なのだけれど。


心の中だけでそう思い、跡部は小さく息を吐いた。

プリントを重ねて整えて、端を止めて、冊子づくり。
作業自体は単純だけれど、膨大な量のプリントを目にしただけで眩暈がしそうな程だった。
済まないが此れを今日明日中にやっておいて欲しい、そう言って、生徒会の顧問は立ち去り。

「悪い、ちょっと休む」
「ああ、」
作業を続ける原田に断りを入れ、椅子の背に凭れて伸びをする。
こんな日に限って、少しは真面目な女子役員は欠席、そうして他の男子役員は。
休んだ子の代わりの手伝いだと、男子生徒を伴ってやって来たらしく、跡部が部に指示を出した後で来てみればそいつ等も交えた作業は始まっていて。
まさかそんな相手に出て行くようになど言える筈も無く、渋々鞄を下ろし、自分も作業に入ったのだが。
飛び入りの輩にそんなに集中力が有ると考えたのが間違いだ。
30分もすれば、連れて来た男子役員共々作業を放り出した。

鞄に手を伸ばし、自分だけが見えるような位置まで、其の中から四角い箱を探り出す。
少し縦長くて、あまり厚い訳でも無い。
控えめにだが、きちんと包装された、其れ。

眺め、そうしてぎゃあぎゃあと煩い役員達に眉を顰め、思う。
連れて来た、其の瞬間に自分が居れば。
そうすればもう少し、注意なり何なり出来たものを、と。

そうしてひとつ、先程とは違う意味を含んだ溜息を吐くと、煩い輩に一喝してやろうかと口を開いた。
と、

「…っわあ!」
「…!」
「ぅわ!!」

突然右肩に誰かが当たってきて、声こそ出さなかったものの手から箱が床へと滑り落ちた。
ガタンと長机が悲鳴を上げ、続いてバサバサと紙類が落ちる音。

「わ…悪ぃ…」
ふざけていてよろけでもしたのだろう、少々青ざめた、ぶつかった男子生徒と役員達。

(……もう我慢ならねぇ…)

堪えていたものが、言葉となって現れる。
「帰れ。邪魔だ」



生徒会室に残るのは、僅か2名。


「原田…オマエも帰って良いぜ」
先程声を上げたもうひとりは原田だった。
「でも、跡部」
「下校時間はとっくに過ぎてんだ。…後はやっとく」
「やっとくったって…」
机の上で、其れでもまだ纏まってはいたプリントは、今や床の上でごちゃ混ぜの山と化していた。
「良いから」
原田の家は、両親が厳しい人なのだと聞く。
「テニス部はまだやってるからな。言い訳しとく」
「……悪ぃ、跡部」
其れを察したのかどうなのか。
「…有難う。じゃあな」
「礼を言われる程のモンじゃねぇよ」
手を挙げて応え、そして引き戸はぱたりと閉められて。

振り返り、山を見詰めて、それから肩で盛大な溜息を吐いた。

恐らくあの箱は、あの…下。




.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ