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□seaside, your side
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「…其れでコートかよ、」
「ウン」

駅から降りて、歩く事数分。
絶え間なく寄せては引く音が、時折強く吹き付ける潮風が、冷たい。


防波堤の縁に並んで腰掛けると、周りには波の音ばかり。
濃紺の地平線はもう何処に在るのか判らなくなって、かろうじて星が瞬くのが空だと識別出来る位。
其の空には半月がぽっかりと浮かんで、まるで波間を揺れる忘れ去られた小舟の様。
時間を掛けて、毎日毎夜を東から西へと。
時計の針もまた、同様に東から西へ。
一日、一日の刻(とき)を、刻んで。
忘れられた小舟は、独り闇夜を渡る。
冷たくも暖かな、優しい光で辺りを照らしながら。
そしてひっそりと、時には雲の中を。
ゆらり、ゆらり、揺れて、

「景ちゃん、」

寄せた身体を其の侭に、視線を互いにゆっくりと交わらせて。



「誕生日、おめでとう」



月だけが光源で、斜め上から柔らかな光が互いを照らす。
いつも見ている顔の筈なのに、月の光の中ではこんなにも優しく、変わって見えるのは何故だろう。

決まり切った台詞だというのに、其れでも何故か、特別に思えて。

どちらからとも無く、目を閉じて。
唇を重ねる。

触れるだけの、微かなキスを何度も。





「…景吾、」

左手を取られ、目を開ければ。
「貰うてくれる?」
少し緊張した面持ちで、それでも笑って、掌の中で淡い光を受けた細いシルバーの輪郭がとても綺麗で。

まるで消えゆく三日月の様だと。

ゆっくりと頷くと、其の漆黒の緊張が解けた様に綻んだ。


左手、愛を誓う其の指に、三日月が動きを止める。
ぴたりと、始めから其処に在る事が決められていたんじゃないかと思う位に。


其れは男女の間でなら、本当の愛を誓う儀式なのだろうけれど。
背徳的な此の行為に、未来など無いのに。

けれど、





「寒ぃだろ、馬鹿」
腕を伸ばし、広い背中に回すと、
「堪忍な。どうしても景吾と此処来たかったんよ」
勢いで少し揺れた身体が、軽やかなテノールを零しながら暖かな腕で包んでくれる。

「月が、綺麗やんか?」





其れだけで今は、充分なのかもしれないと。




















―了





ぎゃーギリギリです…!!
あんだけ前から言ってたのに結局此れですかい…。
でも今日中に更新出来て良かったです…。なんとか。



2004.10.04
Happy Birthday
Keigo Atobe!!



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