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□悲観的交叉回路。
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序:[残夢]
どうして、そんな泣きそうな顔をしてる?
どうして、此の身体は動かない?
ドウシテ、
何もかもが時の止まった其処で
此の涙だけが頬を伝う…?
夢を、見た。
何も出来なかったあの頃の、夢を。
けれど。
何も出来ないというのなら、きっと、今も。
≪悲観的交叉回路。≫
「……ッ…!!」
夢を、見た。
目を開ければ、仄暗い部屋の天井だけが視界に入り、一瞬で夢とのギャップを理解するも、まだ頭の何処かでは意識は夢の中に残っているようで。
酷く不安定な感情と、少し早めの呼吸音と共に上下する自分の胸の感触だけが、やけにリアル。
手を伸ばし、汗ばんだ額の前髪を掻き上げ、其の侭で動きを止める。
秋の入りとはいえ明け方にはかなり冷え込む此の季節にも関わらず、額と同様に汗ばんでいたのかもしれない掌がブランケットの外の空気を切ると同時に、身を裂く様な温度差を感じた。
…忘れて、しまった。
酷く嫌な感じのする夢では、あったのだけれど。
目覚める寸前に、叫ぼうとしていた其の名も、また。
「…ゅうし、」
感触で、隣で彼が眠りに就いている事は判っている。
少し声は掠れたが、其れでも良い。
全く何のつもりか、胸から上を覆う様に此の肩に掛けられている腕。
意識した瞬間、掌が添えられた左肩が、腕が触れている部分の皮膚がじくじくと熱を生む。
…熱い。
熱くて熱くて。此の侭だと火傷でもしてしまいそうな錯覚すら生まれる。
起こしてしまわないか少し躊躇したが、結局衝動には勝てなくて、そっと外した其の手に指を絡め、胸元に顔を埋める様に身体を寄せる。
「……どなぃ、したん?」
「…、何でもねぇ」
暫しの間を置いて聞こえた、掠れた声に心の中で舌打ちをする。
「起こして悪かったな」
「………?」
「まだ、起きるには早いぜ?」
言えば、絡めた指に力が込められ、忍足の身体がもう少しだけ此方に寄せられる。
「……したら、寝よ…? …景、」
「…あぁ。おやすみ」
跡部は僅かではあったが微笑み、そうして眠りを促す言葉を紡いだ。
言い終わらない侭、直ぐにまた寝入ってしまったらしい忍足に、届いているかどうか。
正直、どちらでも良かった。
眠いなら、わざわざ声を掛けることも無いだろうに。
ただ何となく、掛けられた腕の暖かさを感じるよりも、もう少し傍で体温を感じていたいと。
もう少しだけ傍に、寄りたくなった。ただ其れだけなのだから。
けれど、暖かい。
規則正しい呼吸も、繰り返される微かな鼓動も、絡まる指先も。
繋がれた手にもう一度だけ想いを込めて。
浮かんだ独りよがりな想いに自嘲を零すと、再び。
残された僅かな夜へと、其の身を委ねた。
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[残夢](ざんむ)
明け方に、うとうとと見ている夢。目が覚めてもなお夢心地でいること。