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□哀望
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そう口走った瞬間、何故其の名を口にしたのかが理解出来ず息を詰め、ゆるゆると持ち上げた手の甲で口元を覆う。



―…逢いたい、んだ。



酷くもやもやとしたもの、感情を支配していた筈の霧が薄れてゆく。
恐らく此れが己の本心なのだろうというはっきりとした自覚は、唐突に、其の姿態を現した。



傍に居たい。
傍に、居て欲しい。

想う事は唯其れだけだったのだと。





「…有り得ねぇ、」
舌打ちをひとつ。
そうして盛大に息を吐くと、かなり上級であろう否定語を呟き、ゆるりと身体を起こした。
だが其の表情は嫌悪に溢れ…という訳では無く。
寧ろ、ある種の諦めにも似た感情とでも言うべきか。

言葉とは裏腹に其の口元が緩く弧を描く相手は、例えばテニス部のレギュラーメンバーだとかある程度限られていて、けれど其れとはまた違った笑み。
仕方ねぇな、そう言いベッドから降りると、其の爪先は迷う事無くドアへと向かう。



何だかやっと、納得、出来る気がした。





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