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□哀望
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もし、途中で気付いてしまったなら

其れは寧ろ
酷、に違い無いのだから。










哀望/3










「……ッ、」
少しの間、微睡んでいた様だった。
壁に掛けられた時計の針は先程よりも幾らか進んだ時間を指し、何より明かりを付けていなかった室内が少しだけ暗さを増している事が其れを示唆した。
そして、
「…んだよ、此れ…」
眦に違和感を覚え指で触れると、明らかに其れは透明な液体。
今は雫となってはいないものの、確かに其れは流れた跡。
ややあって、漸く自分が涙を流したのだという事を、実感の無い侭に理解する。
泣いただなんて、信じられなかった。まして夢を見ていたという訳でも無いのに。



瞬間、また、どう仕様も無い感覚が身体を駆け巡る。
耐えられなくなり、両手で己を抱き込むかの様に腕を掴むが、そんな事で其れは治まりはしなかった。
寧ろ膨れ上がった感情は勢いを増すばかり。

涙を流したという事も含め、一向に訳が判らない。
己の行動の意図が掴めない。

一体何を思うのか。
苛立ちとはまた違う、何か。


「ゆぅ、し…」
ほぼ無意識のうちに、其の名を紡いでいた。
其の音は静寂の室内へと広がり、意味を成さない。

どうしてこんな感覚に捕われるのか。
此れは罪悪感からなのか、其れとも深い後悔からなのか。
どちらも当て嵌まる様であり、そうでは無い様な気もして。

耐えられ、なかった。

「も…、ゃだ…! ゅぅし…侑士っ…!!」





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