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□哀望
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気怠さが、身体を支配する。
何処か腹立たしく、其れでいて何処か、腑に落ちないかの様で。










哀望/2










「…え?」
「何度も言わせんな。今週は行かねぇ。其れだけだ」

学校からの帰路。
常ならば今日は別れ道に至ろうとも其の侭忍足の自宅へと向かう日、つまり週末であるのだが、
「な…っ、何で…?」
「テメェんトコじゃあまともに勉強させて貰えねぇからな」
「そ…んな事有れへ…」
「有るんだよ。バーカ」
唯の反射とも言えるであろうお決まりの弁明は終わりまで聞き遂げられる事すら無くぴしゃりと封じられ、
「じゃあ月曜にな」
「あ…、ちょ、景吾っ!」
加えて呼び掛けには最早振り返ってすら貰えずひらひらと去りゆく右手が揺れただけで、かといって身に覚えが無いといえば嘘になる為(…)、其れ以上は何もする事が出来なかった。





追い掛けて来ない忍足にザマァ見ろと優越感に浸る反面、少しやり過ぎたかと、胸の辺りがチクリと痛んだ様な気もした。
勉強するだなんて、殆ど嘘に近かった。
時折邪魔はされるものの、其れとは関係無くやるべき事は今までもやっていたつもりだし、今回行かなかったからといって特に大差は無いだろう。
自宅で独り過ごす時間よりも、アイツの家で過ごす時間の方が心地良いかもしれないと思い始めたのは何時からだっただろうか。
だが何故か、不意に、何時もこんな風にしていてはいけないのではないかと思ったのだ。
確かに其の時間は自分にとって、恐らく、嬉しくもあったのだと思う。
けれど、其れだけでは駄目なのではないかと。
与えられた優しさに甘えているだけなのではないかと、其れは果たして正しい感情なのだろうかと。

だから、たまには離れる事も必要なのではと、突き放す事も必要なのだと。
半ば無理矢理に気持ちを納得させて、自らの帰路に就いたのだった。










けれど。





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