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□哀望
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だから家を離れた。
偶然テニスでの特待推薦の話を貰い、きっと今しか無いと思った。
そうして、転校して、東京に来て。
以前の己が抱えた何か、なんてものは何時の間にか、何処かに居なくなっていた。

筈、だったのだけれど。

ふとした事で、『想い』を抱いた。
其の想いが、ひとつだけだった筈の想いが、ふたつになりそして、形を持った気が、した。
最初は良かった。
けれど思えば、其のときから何かが少しずつ己の中で変わっていったのかもしれなかった。
ほんのりと甘い時間が、日々が過ぎてゆくに連れて、何時かのものに似た感情が巣くい始めていた。


今は、良いかもしれない。
彼を想う気持ちに変わりは無い。
けれど時間の流れに逆らう事は誰にも出来ない。
抗えない何かに遮られたとき、一方通行の感情はきっと、何も、生み出さない。
彼の、重荷にはしたく無い。
それでも束縛を、彼を願う感情は後を絶たない。

彼無しでは、きっと生きられない。
だが始めはぎこちなかった其の微笑みが自然になり。
今まで見た事も無い様な表情を向けられる度に、目を奪われ。
そうして同時に感じる己との葛藤の様なものに、耐える事が出来なかった。


そんなとき。
半年程前だっただろうか。もう少し以前の事だったかもしれない。
まだ彼の下の名を呼ぶ事に慣れていなかった頃。

今日と同じ様に、動けなくなった事が、有った。





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