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□哀望
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手を伸ばせば
届くのだろうか
目一杯伸ばせば
君は微笑んでくれるのだろうか
唯ひとつ願うは
例え今だけでも良いから。
此の手を
擦り抜けて行かないで、
哀望/4
ほんの、些細な事だったに違い無かった。
だが蛇口から零れ落ちる水滴であろうと、水を受けるコップから何時かは溢れ出す。
例えるなら、其れと同じ事が起こったのかもしれなかった。
幼い頃は、何に対しても気を回し過ぎていたのだと思う。
表向きの体裁を何よりも恐れ、取り繕う両親のやり方。
周りを、窺う術を自然と学んだ。
差し障りの無いように。
面倒な事は前もって逃れるのが一番だった。
そして、何時だったか。
突然息が出来なくなった。
ただじっと、治まるのを、待った。
時折、其れは唐突にやって来ては、其の度に恐怖を置いていった。
息が出来なくなる事に対して、というものでは無く、寧ろ其れは漠然とした思い。
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