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□Love is blind
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忍足は、跡部の話を聞いて返答に困った。
自宅を訪れた跡部の様子が少し可笑しいかなとは思っていたが、まさかそんな理由があったなんて考えもしていなかったから。
数分前、ソファーに掛けた跡部は、忍足が隣に座るのを見計らった様に口を開き、絶望的とも取れる面持ちで話し始めた。





「……俺が?!」
跡部は少しだけ視線を逸して、俯いた侭頷く。
「そんなんいきなり…無理やて」


「滅茶苦茶な頼み事だってのは判ってる…、けど」
跡部が、躊躇うように見上げてくる。
こんなときの彼は酷く扇情的で、しかも本人は全く気付いていないからたちが悪い。
「オマエしか…居ないんだ」
こんな事頼めるのは、という続きは耳に入っていなかった。


(!!!!)


悩殺0.2秒。

本来の意味とはかなり違う使い方ではあるのだろうが、忍足は跡部の此の表情に酷く弱かった…。





細い腰に腕を回し、引き寄せる。
「うん…判った」
「…忍足?」
「ええよ。俺が力になれるんやったら」
「本当に…?」
「うん」
「やっぱり嫌だとか言わねぇ?」
「うん。約束する」









ぱっと跡部の表情が明るくなり、其の侭腕を擦り抜けてソファーから降りる。
「良かった! …此れ、歌詞とデモテープな」
「ちょ…! 帰るん?!」
カタン、と音を立ててMDをローテーブルに置いたかと思うと、身を翻した其の足は明らかに玄関へと向かっている。
「明日音合わせだから其れに書いてある時間に来い。遅れんじゃねーぞ? じゃあな」
「景吾! ……っ、明日?!」
パタリ、閉められたドアに向かって伸ばした手が空を切った。



数分後。



「……!!!!」



歌詞の書かれた紙を開いた忍足の悶絶が静かに部屋に響いた。
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