NO.6

□ウインターズ・デイ
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ウインターズ・デイ





薄暗い室内に、錠が解かれた微かな金属音が響く。
子ネズミたちは主人たちの帰りに色めき立つように、小さな鳴き声を上げながら床や本棚の上を走り回る。
ゆっくりと開け放たれた空間、その中へ、降りしきる雨の音が我先にと駆け込んだ。

「ただいま、みんな」

ぐしゃり、と濡れた靴で床を踏み、先に室内へと入ってきたのは紫苑だった。
帽子の下から覗く色素の抜けた銀色の髪。それらがぺたりと頬に張り付き、毛先や指先や服の裾、至るところから絶え間なく水滴が落ちていく。
即座に帽子を取り、靴を脱いで裸足になった紫苑は、ぐしょぐしょの両靴を玄関の脇に立て掛ける。
次いで本来の部屋の主人、ネズミが姿を現した。
こちらも紫苑とそう変わりない格好で、水を吸って重くなった前髪を不快そうに掻き上げる。
タオルを取りに行くのだろう、ぺたぺたと床を鳴らしながら奥へと進む紫苑に、

「良いからそのままシャワー行けよ」

ドアを閉め、自分も隣に靴を立て掛けながら、振り返りもせずネズミは言った。

「そりゃあ確かに、さっきぼくがジャンケンに勝った訳だけど…」

一方律義に振り返った紫苑はといえば、そのままネズミの背中に返答する。

「だから良いだろ。ほら足を止めるな。床が無駄に濡れる」
「良いよ、後でぼくが拭いておくから。はい」

タオルの入った棚と玄関。
往復する事でわざわざ床を倍濡らしながら引き返してきた紫苑は、にっこりと微笑んでネズミに乾いたタオルを渡した。

「…そいつはどうも、ご苦労な事で」
「どういたしまして」

ふふ、と笑って今度こそバスルームに向かった紫苑。
無駄な一往復の所為で余計に、そこかしこに水滴が飛び散っている。
ネズミは諦めたように肩で大きく息を吐き出して、肌に貼り付く超繊維布と上着をひとまず脱ぎ捨てた。
水を吸ったシャツはべしゃりと嫌な音を立てて一旦洗濯籠に沈む。
渡された白いタオルで無造作に髪を拭き、首にそのタオルを掛けたまま、ネズミは一度玄関に戻り、扉を開けてシャツを絞った。
なだれ込む雨の音。
音だけでなく、雨水も部屋に向かって滴り落ちる。
洗濯した訳でもないのに、絞ったシャツの感触は同じだ。びたびたと足元に跳ねる水飛沫。


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