NO.6

□望みはこの胸の奥深く
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何をためらう?
手を伸ばせばそこにある。

いや、だからこそ。
ためらわなくてはならない。
踏みとどまらなければ。

愛しさ、歓喜、熱情。
裏を返してみろ。
恐れ、嘆き、悲観。
それは弱さだ。

一度手に入れてしまったら、知らないころには戻れない。
手にしたものを失うことが怖くなるから。

だから、手に入れたいと望まなければいい。
このままでいいと笑ってみせればいい。

薄っぺらな微笑みに、鋼の仮面をつけてみせよう。
望みはこの胸の奥深く、鍵をかけてしまえばいい。

さあ早く、早く。
この感情に、まだ名前のつかないうちに。

名を呼ばれれば、もう戻れない。


「きみの本当の名前、まだ聞いていない」
「お楽しみは、先に取っておいたほうがいいぜ」
「はぐらかすなよ」
「…おやすみ、紫苑」


眠れ、眠れ。
見透かされるその前に。

演じてみせよう。
陳腐な喜劇を。

舞台に幕が降りるまで。



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