テニスの王子様のモノカキさんに30のお題

□手を繋ぐ
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…はらり

はらりはらり。


白き氷の結晶が、音も無く。
其の美しい氷の芸術を身に纏い、

空から舞い降りる。










白冬華










「…遅ぇ」
先程まで本に没頭していた跡部が、ふと顔を上げて一言。
「せやかて…手ぇ抜く訳にもいかんやろ? もう少しやから、堪忍な?」
「……」
忍足は顔を上げない侭、机に着いてノートにペンを走らせる。
対する跡部は、不機嫌そうに溜め息を吐いてまた本の世界へと戻ってゆくことで其れに答えた。

日々の部活終了後に、其の日の記録である部誌を書くことは唯一レギュラーに課された課題だった。そして今日は忍足が其の役割に当たり、部活が終わったというのにこうしてまだ部室に留まっている。
因みに「手を抜く訳にはいかない」というのは決して真面目に記入するという意味だけではなく、寧ろ「再提出は非常に面倒くさいから」という意味だったりする。

だからといって、此の侭長引かせるのは余り賢い選択とは言えないかもしれない。

チラリと彼の方を見れば、活字の集合隊に目を落とす跡部の眉根が微かに寄せられているのが判る。其れが其の本の内容に因るものなのかどうかは判らないけれど。まぁ恐らく、原因が自分であることは間違い無いだろう。


でも、遅い遅いと文句を言いながらも此処に留まってくれているのは。

少し不器用にも思えるけれど、そういう彼の真っ直ぐな優しさが好きだ。そう思う。


最後の一文字を書き終え、ノートを畳む。

「…終わったのか」
「うん、お待たせ」


目を伏せた侭、本を閉じて鞄にしまう、そんな些細な動作だというのに、目を奪われてしまうのは何故だろう。

「…忍足?」
「…、今行く」
ドアノブに手を掛けて振り向いた彼に怪訝そうな視線を送られ、何でも無いというような口調を努めて立ち上がり、コートを手に取る。

ドアを開ける金属音、そして冷気。
「待っ……、景吾…?」
其の侭動く気配の無いドア周辺に目を遣る。
外が、白。



「雪やな…」
「…」



次々と舞い降りる、白の欠片。
少し前から降っていたようで、地面は本当にうっすらとだが、白い。
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