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□seaside, your side
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seaside, your side










10月3日、日曜日。


いつも通りの週末を、いつも通りに。
けれど夜が近付くにつれ、互いに何処か落ち着かない雰囲気。
特に当事者である彼は、

「…景ちゃん」
「! ……んだよ」
「ちょっと其処のリモコン取って?」
「あ、…ああ、此れか」
ほらよ、と渡され、ふと違和感を感じずにはいられない。

普段の彼ならば、
『ああ? テメェで取りゃ良いだろ?』
位は言いそうなものなのに。

本人は普通にしようと務めているつもりなのだろうが、全くどころか、寧ろ逆効果を生んでいる。

(緊張してんのバレバレなんやけどなぁ…)

其れを指摘すればまた怒るのだろうから、口を慎んでおく事にしたけれど。



おもむろに壁掛け時計を見上げ、そろそろやな、と呟く。
ゆっくりとソファから腰を上げ、クローゼットの有る寝室へと向かう。
間違っても防腐剤の匂いなんて残さないように、数日前から出しておいたそれぞれのコート。
二着を腕に掛けると、再びリビングへ。

「景ちゃん、出る用意して?」
「あ? …何処行くんだよ?」
「テレビ消すで?」
振り返り、使うにはまだ少し早いだろうコートなんてものを手に持っている事に対してか、それとも唐突な提案の所為か。
美しい弓形の眉が少しだけ顰められる。
「侑士、」
「着いてからのお楽しみや」
笑みを向け、玄関の鍵を指で振ってみせた。





最寄りの駅から、切符を忍足に渡されて、電車に揺られる事何時間か。

外の景色は車内が明るい為、反射されて見る事が出来ないが、アナウンス等から大体の位置は判る。
そして、此の列車が向かう先に何が在るのかも。
恐らく夏に一度レギュラーの奴等と遊びに行った、あの。


結局行き先については触れず、他愛もない話をしながら、刻一刻と短針は真上を指す為に動いてゆく。
こんな風に連れ出すからには、忘れてはいない様だけれど。

(勿論忘れただなんて許しゃしねぇけどな)

列車がゆるゆると速度を落とし始め、
「降りよか、」
やはり予想は違えていなくて、其の言葉が発せられる。






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