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□幾度でも繰り返すささやかな愛のカケラをきみに。
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1万回?
愛してる?

ふざけるな。
馬鹿にするなよ。
甘ったるい言葉で、行動だけで、総てが思い通りになる訳ねぇだろ。



2万回目に返事をするから



――好きやで、景吾。

そうだお前は馬鹿みてぇに繰り返す。
何度も、何度も、毎日毎日。
甘ったるい台詞を唇に載せて、優しい指先で俺に触れて、体温でそっと包み込む。

――好き。愛してんで。

いや、まだだ。
まだ足りねぇ。
1万回なんて、其の程度で足りると思うな。
もっと。もっと。
もっとだ、繰り返せ。
止めるんじゃねぇ。
そうだまるで狂ったみてぇに、不自然な戯れ言を呟けよ。
背徳の海に溺れてしまえ。
溺れて、沈んで、もう浮かばないと言ってくれ。

そうでないなら返事は出来ない。
判ってる。
柄にもない。怖いんだ。
答えた後に目が醒めるのが怖いんだろう。
いつまでも続く筈がないと、頭の何処かで判ってる。
伸ばした手を振り払われる事が怖いんだ。
だから繰り返せ。
もっと、もっと。
嘘のような、本気の言葉を紡いでくれないか。
何度も、何度も。
そしてお前がもう浮かばないと言うのなら、其処で初めて確信が持てる。
怯えなどなく此の手を伸ばせる。
だから其れまで、好きだと言えよ。
甘い戯れ言で耳を塞げ。
此の視界を、お前の総てで埋め尽くしてくれ。
余計なものを遮断して、二度と醒めない夢を見させろ。

なぁ、無理だろう?
無理だと言えよ。
醒めない夢なんてないんだ。
そんな事は判りきってる。
だから何でも良い。
何でも良いんだ。
何も考えなくて良いなら何でも良い。
だから、どうせ醒めてしまうのならとびきり甘い夢を。

――愛してる。

もっと。
もっとだ、繰り返せ。
止めるんじゃねぇ。
ああそうだ、もういっその事狂っちまえよ。
甘くて暗くて、深い深い海の底に、一緒に沈んで行ってくれ。
甘ったるい言葉で、行動で、総てを思い通りにしてみせろ。

そうだ繰り返せ。
もっともっともっと。

もっとだ。
俺に聞かせろ。
身体で示せ。
お前の本音をぶつけてこいよ。
どんなものにも負けねぇ言葉で、行動で、俺を満足させてみろ。



否。
本当は、お前が居れば其れで良いんだ。
俺がお前の総てなら、お前は俺の総てなんだぜ?
だから、伸ばした此の手を離すなよ。

…あぁ、そうだな。
どうせくれるなら、二度と醒めない愛しい夢を。



―了
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