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□カキ氷
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ぺろ、と舌を出した忍足の其れは、本来の舌の色にシロップの色がついて、
「派手に化粧したヤツの失敗作みてぇ」
「…、大体判るわ」
外で熱くほてった身体を、クーラーと口に運ぶ氷が冷やしてくれていた。
イチゴ練乳とブルーハワイは舌の上で無惨な痕跡を残すのみ。
再び振り返って鏡で確認する跡部の右頬、冷たいものが押し当てられて、直ぐに其れが忍足の唇だと判る。
「…んだよ」
「堪忍な? 景吾があんまり可愛えから、」
視線を戻さない侭言うと、鏡の中の笑った忍足と目が合う。
「な、もっかい舌出して?」
何度見たって同じだ。強い赤紫、人工の苺色。
ふぅ、と息を吐いて先程より少し多めに舌を覗かせると、少々無理な角度の侭で口吻けられ、驚く間も無く強く吸われた。
ちゅ、と小さく音が響いて、状況を理解した跡部の頬が僅かに染まる。
「真っ赤なん落としたげるから、青いのも落としたってくれる?」
「ちょっ、テメェだってまだ残ってんだ、ろ」
半分近く中身の残ったカップを指して言うが、言い終えないうちからまた唇が重ねられる。
「せやったら、全部食べた後でもっかいこうすればええんちゃう?」
「バッカ、溶けちまう、…ッ」
制止も聞かず、忍足の手がカップとスプーンを巧みに掠め取り、既に自分の分は移動させ済みのローテーブルに載せた。
「大丈夫やて。カップアイスの利点はな、凍らせ直しが出来る事やねん」
味はそう変わらんやろ、と笑う忍足に、やってらんねぇなと肩を竦めて。
安易で勝手な言い分に従って、甘い甘い痕跡を味わう事にした。
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