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□イバラノシロ
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高速のパーキングに停めたバスの中に、眠り姫一人。暇さえあれば体を鍛えていて、短気でいっぱいいっぱいな俺の姫。

「なんと美しい姫だ」
耳元でそう囁くが反応はない。さすが眠り姫。
「やっぱりキスしなきゃ起きねえの?姫は。」
「うん。」
「ふふ。返事しちゃダメだろ」
そう言って、そっと唇を重ねる。離れる距離と比例して開く康太の瞼。
「おはよう、王子。」
「おはよう、眠り姫」
目を合わせたまま、二人で笑った。

外に出て数歩歩くと、平野を一望できる絶景ポイントに着いた。
「姫、いかがですか。100年ぶりの外の世界は」
「すっげーいい眺め!キラキラしてる……っちゅーか、俺は100年も寝てないし!」
康太が俺の腕に抱きつく。

この景色を康太と2人で見られたことに感謝した。幸せとはこういう気持ちを言うのだろうなと思う。

「ねぇ、お兄。なんか昼のニオイがしねえ?」
「ヒルのニオイ?」
「うん。東京じゃこんなニオイはしないけど…。小さい頃はこのニオイをよく感じてた。あ、でも東京でも朝のニオイはわかる」
[小さい頃]という言葉に、幼い康太と一緒に過ごしたいくつかの思い出が蘇った。ずっと大切にしていた、これからもずっと大切にしていく思い出…。
その暖かさに、思わず目を細める。

これからも続けていく、コータとの現在。



「…康太。何年、何十年…何百年後になるかわかんないけど、いつかこういう…自然もいっぱい感じられる所に二人きりで住もう。」

康太はボケっとした顔で俺をみつめている。
「何百年って?」
「またお前が百年ぐらい寝ちゃうかもしれないから。」
「あはは。だから…」

康太が喋れなくなったのは、康太の口を俺の口で塞いでしまったせい。ちょっと長めに…周りなんか気にせずに…。

「…そうだね、二人で…住もう。絶対だよ?」
幸せを噛み締めるように頷いた。そんな俺に、照れながらも笑顔を見せる康太。


この笑顔を、何百年先までであろうがずっと守り通すことを一人胸に誓った。



END
後書きあり
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