隔離文

□無題
1ページ/1ページ


※小話設定。
※短くまとめたかったのに、だらだらと長くなったので没に。

++++++++++++








独特の喉ごしと甘さ。
反射的に出る吐息と緩む頬。
キラは口をつけていた湯呑みを、ゆっくりとこたつのテーブルへの上へと置いた。


「この時期になると飲みたくなるよね、甘酒」

「ちょうど酒粕もらったしな」


また、暫しの沈黙。
重なる吐息。


「何か、体がぽかぽかしてきた」

「まさか酔ったのか?」

「甘酒で?」


苦笑するキラにアスランもつられて苦笑する。


「確かに、これで酔ったらびっくりだな」

「あれ?期待した?」

「むしろ安心した。面倒くさいのを相手にしないで済んで」


息を吹きかけ、湯呑みの中の液体を冷ましながら口をつけるアスランをキラは一瞥した。


「冷たいなぁ。ね?シン」

「…そこで俺にふるのか」


今まであえて沈黙を保っていたシンが、些かげんなりとした表情でテーブルへと視線を落とした。


「僕達飲み仲間じゃないか」


キラが穏やかな笑みを向けるが、シンは素っ気なく視線を逸らす。


「…突っ込まないからな」

「あれ?残念」


わざとらしく肩を竦めるキラにシンの片眉がぴくりと反応した。


「…俺も酔っ払いの面倒はみたくないんで、潰れたとしても放置しますよ。…特にアンタは、ね」

「何か含みを感じるね?」

「そう思うならそうなんじゃないですか?」

「…なるほど?」


ますます笑みを深めるキラに、視線を逸らしたままのシンは気付かない。
見るに見かねたアスランが口を挟んだ。


「シン。こういう場合はスルーするのが正しい選択だ」


アスランの忠告にシンな殊勝な顔で俯いた。


「すみません。以後、気をつけます」

「うわぁ。どっちもひどい」


僕は泣き真似をするべきかな?空気を読んで。そう言って両手で顔を覆うキラにシンは半眼になった。


「そう思うなら黙って読めよ」

「うーん。シンが慰めてくれるなら気合い入れてやろうかな」

「放置プレイでいいなら勝手にどうぞ」

「えー。僕、マゾっ気はないんだけど…。でも、シンが望むなら…」

「っ!これだからアンタはっ!」


頬に手をあて照れたように顔を逸らすキラにシンが身を乗り出した。
一触即発というか、一方的に憤って一方的にからかっている二人のやり取りを我関せずとばかりに静観していたアスランは、額に手を当てため息をついた。


「…絡むなキラ」

「だってシンが冷たいから」

「俺が悪いってのか!?」

「………キラ」

「あれ?普通は両成敗だよね?」


嗜めるアスランにキラが苦笑する。


「発端はお前だろ。シンは割と短気なんだから煽るな」

「…たいがいアンタもひどい言い草だけどな」

「そうか?」


首を傾げるアスランに、今度はキラとシンが顔を見合わせた。


「さて。おかわりいる人」

「あ、はーい」


立ち上がるアスランに、すかさず手を上げるキラ。
手にしている湯呑みを持て余すようにちびちびと飲んでいたシンは、若干眉を寄せたまま首を振った。


「俺はまだいい」


その言葉に腰を曲げた中途半端な姿勢のままのアスランが再度尋ねた。


「遠慮しなくていいぞ?」

「…水分摂り過ぎでお腹苦しいんだよ」


お腹を擦るような仕草をしてアピールするシンに、キラもまた空の湯呑みを手で遊びながら頷いた。


「寒さをとるかお腹の苦しさをとるか…究極の選択だね…」

「確かに…寒いと温かいものをつい飲みたくなるからな」

「ほんの数分しか保たない儚い温もりなのに不思議だよね」

「その数分のためにまた飲みたくなるんだろ」


キラの手の中から湯呑みを受け取り、こたつの横を通り過ぎかけた所でシンが振り仰いだ。


「やっぱり俺も下さい」


その言葉にアスランが足を止める。


「無理に飲まなくてもいいんだぞ?」

「…苦しさより一時的な温かさを取りたいんで」


アスランに湯呑みを渡すのと同時にこたつへと体を接着させるように猫背になるシン。
キラもまた手をこたつの中へと入れて、ぼんやりと前を見つめている。
そんな二人の姿に、3つの湯呑みを手にしたまましばし考えたアスランは、手にしたものを一旦テーブルの上へと置いた。


「むしろ、空調をあげるべきか?」


リモコンを探すアスランの後ろで二人はため息を吐いた。


「これだからアスランは…」

「は?」

「珍しく同意見ですね」

「シン?」


やれやれ、とでも言いたげに揃って首を振る二人にアスランは首を傾げた。


「まさに今だよ」

「……何が」

「空気」


空気?と聞き返すアスランに、キラとシンは再びわざとらしくため息をつく。


「寒いからこそのこたつの存在意義だろ」

「こたつは庶民の必須アイテムだね」

「俺はこの素晴らしいアイテム考えた奴を尊敬するな」

「僕も」


そう言ってテーブルへと頬をつけて懐く二人にアスランは視線を彷徨わせた。
……なるほど。
どうやら余計な気遣いだったと、ようやく気づいた。
とりあえず、てっとり早く暖を取るために再び手にした湯呑みを持ってアスランは一人キッチンへと足を向けた。







end




_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ