隔離文

□鍵のない宝箱
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※フレユリ前提のレイ+ユリ。
※書き方を模索してた時の没作。

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何つーか。

何で俺は、こんなにイライラしているんだろう。
意味がわからない。
いや。
明らかに目の前の光景に対してイライラしているのだけは分かっているんだが。
もっと言えば、特定の人物。
更に言えば、そいつの現状に対して、だ。
わかりたくはないが分かっている。
第三者から見れば俺のその状態と心情は所謂、嫉妬と判じられるかもしれないものだということもわかっている。
だがしかし、
そもそも嫉妬ってあれだろ?
特定の相手が他の人と仲良く話してるだけで何かイライラしたりもやもやして、妬んだり僻んだり羨んだりとか存外、ねちっこい感じのやつ。
下手したら修羅場になりかねない厄介な感情。
でも、そうじゃないんだよなぁ。
何つーか。
俺がいま感じているものは
そんなドロドロとした複雑なものではなく。
もっと単純な
嫉妬というよりは、


「構って欲しいとか?」

「…んー、おっさん微妙に正解?」

「正解の言葉の前後に『微妙』とか『?』がついてる時点でそれは正解じゃないと思うんだけど…」

「って言われてもなぁ…、俺も答えしらねーから答えようがないな」

「えー。つまんなぁい」

「勝手に人の思考の中に割り込んできて何言ってんだか」


別に、おっさんを楽しませようとなんて俺はこれっぽっちも思ってねぇし。

男二人ベンチに腰掛けながら、隣の男に向けて吐き捨てた。


「…何か今日はやけに冷たくない?おっさんの清らかで繊細な心が青年の氷のような鋭い言葉の刃でずたずたなんですけど」

「案外しぶといみたいだから大丈夫だろ」

「ひどっ!」


顔を手で覆い大袈裟に泣き真似をする男を鼻で笑う。
清々しい程の晴天日和。
にも関わらず、胸中は正反対の曇天模様。
むしろ、雨も降っている気がする。
そんな悪天候、思わずため息だって出るというものだ。


「…ってのは冗談で。青年のそれは立派に嫉妬なんじゃないの?」

「…どうなんだろなぁ」


そもそも、嫉妬の対象は誰なのか。
別に、彼が誰と仲良くしようとも嫉妬以前の問題で特に何とも思わないのは本当だ。
仲いいなぁ。とか、慕われてるなぁ。とか。
むしろ誇らしくすら思う。
……でも。
たまに…、本当にたまに
何気ない瞬間に、むずむずと痒くなるのも事実だ。
それを嫉妬かと問われれば、俺自身は違うと断言出来るが、端から見ていて嫉妬だと感じたのならそうなのかもしれない。


「いっそのこと、素直に混ざれば?」

「…あれに、か?」

「そ。あれに。そうすれば、わかるかもよ?」


迷子になってるその感情の行き先が。

迷っている状態を表しているのか、ゆらゆらと揺らした指先がゆっくりとこちらの胸元へとたどり着く。
衣服に触れない程度の微妙な位置で留まったその指先を、無造作に払い除けた。
視線の先にある人の輪。
何が楽しいのか騒いでは彼に絡んでいる仲間達。
いつだって彼の周りには笑顔が溢れている。
自然と笑みが零れた。


「気になるんでしょ?」


またしても割り込んでくる声。
幸福な気分に水を注されたようで、声に険が混じる。


「…なにが」

「彼が」

「なんで」


肺に溜まっている息を全て吐き出すかのような長いため息が聞こえた。


「焦れったいわね。…案外、簡単なのに。青年は余計な事ほどごちゃごちゃと考えすぎ。それって、癖?」

「……だからどうした」


憮然とした面持ちで頬杖つけば、男はにやにやと面白がるような笑みを浮かべた。
むしろこの男にこそ、いま現在進行形で苛立ちを感じているのだが。


「んー、思ったよりも面倒くさいなぁって」

「…悪かったな」

「いやいや。若い内はいっぱい悩んだほうがいいわよ。ただ…」

「……なんだよ」

「んー、自己完結しやすい傾向もあるなと思って。みんなが気付いた時にはもう結論が出た後で全てが終わってる…みたいなね」

「…それのどこが悪いんだ?自分自身に関する決断を他人に押し付けるほど無責任じゃねぇよ」

「そこが問題じゃなくて。青年が自己完結しようと判断する範囲が人より広すぎるってことを言いたいの。別にそれが悪いとは言わないけど。一歩間違えれば独り善がりにも見えるってこと分かってるのかなぁって心配になったわけ」

「心配ねぇ…。俺は、俺に出来る範囲でしか責任は負わないし負うつもりもないぜ」


それを独り善がりだと言うのならそうなんだろうな。

意図せず避けたその会話に男は気付いただろうか。


「あと、青年の行動によって周りに与える影響が青年が思ってるより大きいってことも自覚してね」

「……そうでもないだろ」

「…ま、そういうことにしとくわ」


多分、もっと言いたいことがあったのに無理矢理打ち切ったような諦めて引いたような雰囲気を感じたが、やはりそれには触れなかった。


「最近は、そういう傾向になるとすぐにわかるようになってきたから、早めに対処しやすいからいいけど」

「…この前もそんなこと言われたが、そんなに顔に出てるか?俺」


全然自覚がなかったのだが、いつだったか仲間に指摘され親友にも同じことを指摘されたので、最近になってようやく諦めて認めたばかりなのだが、今でも自覚はない。


「前に比べれば?表面上の感情は隠さなくなったみたいだけど、もっと奥深くに隠してるのは相変わらずって感じかね」

「そんなに表裏がありそうに見えるのか?」

「表裏というよりは…悟られたくないもの出す必要を感じないものを隠すのが上手いって事だろうよ」


ちらりと横へ視線を向ければ、何を考えてるのかわからない眼差しで仲間達を見つめている。
紡ぎかけた言葉を飲み込むと別の言葉を吐き出した。


「誰にだって、隠したいことの一つや2つあるだろ。…言っておくが、今はもう何も隠してないからな」

「全部オープンにしろとは言ってないわよ。最初から隠さず全てを曝け出してるのも、それはそれで別の問題があるし。…ユーリの場合は、自分自身でも気付いてないものがまだありそうな気がして」

「…はぁ?」


思わず振り向く。
俺が何か重大なことを隠してるとでも言いたいのか。
そもそも、自信が存在すら認識していないものを隠すなんて不可能じゃないか?
だって、あることに気付いていないのだから隠しようがない。


「ごめん。言葉が足りなかったわ。その隠してるものは隠したままで構わないんだけど、もし隠してることに気付いてないんだとしたら、早く自覚したほうがいいって言いたかっただけ」

「…本人も気付いてないのに隠してるとか矛盾してないか?」

「んー。そうでもないと思うけど?そもそも隠すってことは、本人が気付きたくないからってことだろうし。…例えば、大事にしているものがあって大切なものだからこそみんなに見せたくなくて、誰にも見つからない安全な場所に隠したら本人もその隠し場所を忘れちゃって結局見つからないっていう」

「ただ、そいつがまぬけなだけじゃねーか?」

「それだけ大事なものだったのかもよ?」

「だったら尚更忘れないだろ。仮に大事にしているから隠したんだとしても、存在そのものを忘れるってことはそんなに大事なものでもなかったとも言えるんじゃないか?」


訝し気にそう指摘すれば、男は肩を竦める。





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