隔離文

□無題
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※携帯を整理していたら出てきたもの。
※現パロっぽい。
※飼い主フレンと猫ユーリ+ラピード。

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心なしか重く感じる扉を開くと、包み込むような温かな空気に出迎えられて無意識に体の力が抜けた。


「……ただいま」


ため息とともに脱力したように肩を落としながら同居人のいない室内へ無意味な挨拶を投げ掛ける。
その人気のない闇の中から、軽い足音とともに一鳴きの返事。
同居人はいないが同居者?が玄関まで出迎えにきてくれたようだ。
にゃーという声とともに、軽いけれども力強く駆けてくる足音に即座に反応して少し屈めば、素晴らしい脚力でもって飛び上がったしなやかな小さな体が胸元目がけて飛び込んでくる。
慌てて腕の中に抱え込めば、黒い毛並みに長い尻尾がゆらゆらと揺れ、まるでおかえりとでも言いたげにまた鳴いた。
彼は僕の家の住人のユーリだ。
鳴き声からわかるだろうけど猫である。
相変わらず大人しく胸元に収まったまま返事を待つように見上げてくるユーリに、改めてただいまと言葉を紡いだ。

僕の部屋には人間が一人と動物が二匹住んでいる。
人間とは言わずもがな僕のことだが、動物二匹というのは一匹は先程の猫のユーリで、もう一匹は犬のラピードだ。
この二匹は上記の通り種族は違うが、ラピードは面倒見がいい所為かとても仲良しだ。
ユーリが子猫の時にうちに来たときにはもうラピードを飼っていた所為か、気付けば何かとやんちゃなユーリの面倒をみてくれるようになっていた。
そんなラピードの存在は、日頃仕事が忙しくて家を空けがちな僕にとっては本当にありがたかった。
今では二匹とも年齢を重ねたせいかユーリは若干落ち着いたようだが、二匹の関係はあまり変わっていないらしくいつも一緒に行動しているようだ。
『ようだ。』というのは、僕が留守のあいだ自由に外を出歩けるようにしているためか、よく近所を二匹で散歩している光景が見られているらしく噂になっているからだ。
二匹の散歩は少し変わっている。
ユーリは長距離を移動するのが面倒臭いのか、はたまた物臭なのか、外だけではなく家のなかでもよくラピードの頭の上に腹這いで乗っている。
子猫時代のユーリはラピードとも僕ともかなり歩幅が違った所為か後ろを一生懸命ついてくる姿はとても可愛らしかったのだが足取りは危なっかしく、多分ラピードも同じ気持ちだったのだろう。
僕が手を出す前に子猫を口に咥えて歩くようになり、気付いた時には今と同じように頭に乗せて移動するようになっていた。
習慣化されてしまったそれはユーリが成長してからも継続。
見かねた僕がある日、横着するなとユーリに叱ったのだが、相変わらずユーリはラピードの頭や背中に乗りたがるし当のラピードもそんなユーリを邪険にすることもなく抵抗すらしていないことに気付いてからは、黙認するようになった。
今では微笑ましく見守れるようになっていたりする。
むしろ、端から見れば可愛い。
そんな事を思いながらユーリと一緒にリビングへと足を進めていると、少し開いていたリビングの扉を頭で更に押し開けたラピードが姿を現した。
足元に寄ってきたラピードの頭を、空いた手で撫でてただいまと声をかければ、返事の代わりに一鳴きが返ってくる。
ユーリをラピードの側へと下ろし、二匹と一緒にリビングへと足を踏み入れればラピードは定位置である寝床へと戻ったが、ユーリは珍しく僕の跡をついてきた。
ソファーに座り天井を仰ぐようにもたれかかれば、膝へと飛び乗ってきたユーリが体を伸ばし頻りに僕の頬へと前脚をおしつけ始める。
閉じた視界で頬に肉球がぷにぷにと当たる感触を感じながら瞑目する。
気持ちいいけど、同時にわざとなのか出した爪も一緒に押しつけてくるから正直、痛気持ちいい。
…というか、むしろ痛さしか感じないんだけど。


「…っいたたたた!ユーリ!?どうしたの?」


気付けば、何かを訴えるかのように頻りに頬に肉球…爪を押しつけ、にゃーにゃー鳴き続けているユーリに僕は首を傾げた。
猫語は残念ながらわからないので、ユーリが何を訴えたいのか全くわからない。


「…おなかすいたのかな」


ユーリって意外に食いしん坊だから。

そんなことを必死に鳴いているユーリの体を撫でながらぼんやりとした頭で思っていると、顎目がけて何故か猫パンチがとんできた。

……いたいです。ユーリさん。

意外に威力のあるその抗議に、顎を撫でながら見下ろせばユーリは全身の毛を逆立てながら何やら怒っていて、更に苦笑した。
餌を強請るくらいで照れなくてもいいのに…。
さっきとは違う声音でまたにゃーにゃー騒ぎだしたユーリ。
喉元を擽るように撫でてやれば、今度は指先を甘噛みされた。
余程お腹が空いているようだ。
…ラピードとユーリの餌だけは用意しないとなぁ。
目蓋が重い。
お腹をぺしぺしと叩かれている感触とユーリの鳴き声を聞きながら、僕は必至に睡魔と戦っていた。










end










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