隔離文
□2012・V.D記念
2ページ/2ページ
「ユーリ、それって甘いのか?」
「さぁな。味まで教えたら、当たりを引いた時の新鮮味がなくなるだろ?」
「あ。それもそうだな」
ごめん。とでも言いたげに口元を手で覆い隠すルークにユーリは苦笑する。
「味は教えられねぇけど、食感は明らかにチョコとは違うから丸呑みさえしなけりゃすぐわかるさ。さて2週目いくか」
「よし!……どれにしよう」
暫く迷うように少し時間をかけて慎重に選んだ末、口に入れたチョコを咀嚼しながら、また外れだ…。と呟く声を聞きながら皿を横へと移動する。
しかし一向に手を出そうとしないクラトスに、ユーリは訝しげに声をかけた。
「クラトス?」
「…あれ?チョコ嫌いだったのか?」
「……、いや…大丈夫だ」
二人の視線にチョコを凝視していたクラトスが、今気付いたと言わんばかりに顔を上げる。
そして、どこか難しい顔をしたままクラトスが恐る恐るチョコへと手を伸ばした。
摘んだチョコを、暫くの間まるで敵のように睨み付け、やがて意を決したように口へと入れる。
……が、一口咀嚼したところでクラトスの顎の動きが不自然に止まった。
その反応に、ユーリとルークがそれぞれ喜色の笑みを浮かべる。
「お。その反応は、当たりか?」
「マジで!?何入ってたんだ?」
当たりを引き当てたらしいことで俄かに沸き上がる2人。
暫く口の動きを止めたまま固まっていたクラトスだが、次第にその強張った表情が緩み始め最後には怪訝そうな表情へと変わる。
その様子を、中身の知らないルークだけが僅かに身を乗り出して注視していた。
やがて、中身を把握したクラトスが重い口を開ける。
「……これは…、アップルグミ…か?」
「正解」
「へー、アップルグミが入ってたのか」
微かに感じたグミ特有の食感に間違いはなかったらしい。
現在船にいるので回復されたかは分からないが、それは確かにいつも食べている味だ。とクラトスは納得したように視線を戻した。
「……確かに、普通は料理の中に入れないものだな」
「だろ?」
彼らの指すアップルグミとは嗜好品ではなく回復薬品のほうなので、まず料理に入れようとすら普通なら考えないだろう。
何故なら、同じ味の食用のグミが別に存在しているからだ。
「でも、だったら何でユーリは入れようと思ったんだ?」
ルークからあがる当然の疑問に、ユーリは肩を竦めた。
「入れたのは俺じゃねぇよ。さっき作ってる時に、たまたま食堂にいたロイドとカイルが面白がって一つだけ混入させたのさ。まぁ、見えたそれがアップルグミだったし市販のグミ入りチョコだと思えば別に変じゃないしいいか。と思って放置したんだが」
「確かに普通にお菓子として売ってるもんな」
うんうん。と頷くルーク。
「で、それは責任を持って俺が食う予定だったんだけど、そこに2人と入れ代わりでルークが来てクラトスもきたから面白そうだと思って誘ったってわけ」
こういうのもたまにはいいだろ?と肘をつき手の甲に頬を乗せた格好で笑みを浮かべるユーリに、ルークもまた同意するように勢いよく頷く。
「面白かった!ユーリのチョコも美味しかったしな」
「それは良かった。クラトスも無理矢理呼び止めて悪かったな」
「……いや。杞憂していたものでなくて安心した」
安堵からか思わず出てしまった言葉が失言だと思ったのかクラトスがすぐさま黙ると、そのあからさまな様子に何かに気付いたユーリが次の瞬間にやりと口角を上げた。
「…あぁ、成る程。だからあのとき食べるのを躊躇ってたのか。確かにあれも赤くて丸いよな?」
「……」
「何のことだ?」
頻繁に料理当番が回ってきているユーリは、どこかで聞いたのだろう。
そのものの名前を口に出さない辺りはクラトスへの配慮も見せているが、如何せん浮かべている笑みが笑みなだけにクラトスの表情が次第に苦々しくなっていく。
そのまま黙秘を貫くクラトスとそれを楽しそうに眺めるユーリ。
一人事情が分からないルークだけが、二人に挟まれながら首を傾げていた。
「ま、提案したのがロイドだったみたいだし。さすがに見るのも嫌なアレを入れようとは思わないだろうぜ。そもそも、アレをチョコに混入させるのは結構難しいと思うけどな」
いや待てよ。アレンジ次第では意外に旨そうなのが出来そうだし、今度試してみるか。と不穏な言葉を呟くユーリにクラトスは渋面のまま視線を逸らす。
多分、目の前のチョコとの組み合わせをうっかり想像してしまったのだろう。
無表情なのに、何故か涙目になっているような…そんな幻覚が見えた気がして、可愛いな。とユーリは思いつつ目を眇る事でそれを表情には出さず隠す。
そして空気を変えるように、一人蚊帳の外だったルークへと声をかけた。
「…さて、と。ルーク、残ったチョコ食うか?」
「いいのか!?」
「あぁ。クラトスはどうする?」
早速一つ摘んでいるルークを横目に声をかければ、早々と立ち上がったクラトスがそれでも躊躇いがちに辞退した。
「悪いが…この後用事があるのでな。二人で食べるといい」
その返事を予想していたユーリは引き止める事なく頷く。
「そうか。またな」
「今度また3人で集まろうぜ!」
背中からかかった声に、扉へと向かう足を止めたクラトスが振り向けば、それに気付いたルークとユーリが軽く手を振っていた。
「……あぁ」
クラトスは手を振り返すことはせず頷くだけで返答を返すと、そのまま出口へと足を進めた。
隔てていた扉の向こうに一歩出れば、生活音とは別に喧騒も聞こえてくる。
その先へと廊下を急ぐクラトスの顔には、知らず微笑が浮かんでいた。
end
+++++++++++
この3人だと私的には、ユリクラでクラルクでユリルクになるかもしれない。