隔離文
□2012・V.D記念
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バレンタイン記念10作目。
※色んな意味で途中放置。
※TOW3のつもりで書き始めた筈が、ほとんど完成してからルークの性格が短髪な事に気付いたという…。
※なので、TOW2という事でお願いします。
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「第一回、当たりチョコ争奪ろしあんるーれっとー」
「いぇーい!」
「……」
棒読みの割には楽しそうに手を上へと振り上げるユーリに呼応するように、ルークもまた拳を振り上げている。
第一回ということは第二回もやるつもりなのか。と、盛り上がる両脇を気持ち一歩引いた所から眺めつつクラトスが心の中でこっそり突っ込みを入れるが、当然の如く返事はない。
ある程度の人数は収容可能な程度には広さが確保されている食堂の一角。
昼食の時間も過ぎ、しかしおやつの時間には早すぎる中途半端な時間帯のせいか、現在3人だけがこの場に留まっていた。
片付けられたテーブルの真ん中に置かれた皿にはトリュフチョコ。
多分、ユーリの手作りなのだろう。
その皿を囲むように座る3人だが、少なくともクラトスはそのチョコを食べに食堂へ来た訳ではない。
しかし何故か、先にいたルークと共に座っているクラトスは当初の目的も果たせぬまま、どこか居場所を探すように視線を彷徨わせていた。
結局のところクラトスは、何故ここに座っているのかが分からないのだ。
食堂に入った途端、よく来た!と言わんばかりの笑顔でもってユーリに出迎えられ、やや強引に勧められるまま思わず座ってしまったため、席を辞すタイミングを失ったともいう。
そんな今更な状況把握をクラトスがしている間にも、謎のゲームは淡々と進行されていた。
「えーと、まずは簡単なルール説明からな。ここにある12粒のチョコの中に一つだけ当たりのチョコがある。なんてことはない。単に、一つだけチョコの中に何かが入ってるってだけだ。それに当たった奴が勝ち…と。ってことで……そうだな、時計まわりに一粒ずつ選んでくか?よし。まずはルークから選んでいいぜ」
許可とともにテーブルの上の皿を少し滑らせる。
目の前に差し出されたチョコにルークは真剣な眼差しを注いだ。
「何でもいいんだよな?それじゃ…これで。いただきます…、………うん。普通に美味しい!」
「よし。次はクラトスだな」
「……私もか」
当たり前のように順番を振られて、表情には辛うじて出なかったがクラトスは驚いていた。
席に座らされた時から、何となくは参加者として数えられている…というか、むしろ参加者にさせられたのでは…と思っていたが、何故か本当に回されるとは思っていなかったのだ。
「アンタだけ仲間外れにするわけないだろ?」
そんなクラトスに、ユーリは肩を竦めルークは不思議そうに首を傾げながら待っている。
クラトスは困惑したように視線を逸らした。
「…むしろ、して欲しかったのだがな…」
「外れのチョコさえ引かなければ味の保証はするぜ?一個だけ中に何かが入ってるってだけで味は他と同じで普通のチョコだしな。もちろん、ゲテモノとか変なものは入れてねぇよ。…まぁ、食いたくないなら無理にとは言わないが」
躊躇うクラトスの心情を察したらしいユーリが改めて、どうする?と訪ねつつも促す。
暫し動向を迷っていたクラトスも、やがて諦めたように嘆息した。
「……わかった。もらおう」
考察する時間もなく手前から一粒とり口に入れたクラトスが咀嚼するも、これといって反応がない。
どうやら外れだろう、とそれを見届けたユーリもまた皿へと視線を移した。
「さて。次は俺か。……んー。何も入ってねぇな」
「って事は、一週目はみんな外れかぁ」
残念そうに眉尻を下げて、がっかりといった気持ちをそのままに表情で出すルーク。
その子供っぽい反応に、指についたチョコを舐めとりながらユーリは苦笑する。
そして、早くも次のチョコの選定を始めたルークの傍らで、クラトスだけが皿を見つめながら何やら思案顔で黙りこんでいた。
「…先程、当たりのチョコには何かを入れたと言っていたが、一体何を入れたのだ?」
どうやら、自らが参加するとなると途端に中身が気になりだしたらしい
クラトスのその疑問に、ユーリはルークへと皿を勧めながら答えた。
「それは当てた時のお楽しみってやつだな。そうだな…ヒントは、赤っぽいやつ…か?」
「!?」
「赤っぽい?……もしかして、唐辛子とか、辛いやつなのか?」
チョコへと手を伸ばしかけていたルークが目を見開いて動きを止めた。
どうやら赤と聞いてイメージしたものが辛いもので、その辛いものから唐辛子を連想したらしく、おまけにチョコとの組み合わせの味まで想像してしまったらしい。
露骨に眉を顰めて皿へと伸ばした手を引っ込めたルークにユーリは笑った。
「別にバツゲームって訳じゃねぇんだから、それ単体でも普通に食えるやつを入れたから安心しろルーク。…ただ、普通はチョコに入れるものではないだろな。…大雑把な括りなら、かたちは丸に近いのか?」
「チョコには普通は入れなくて、赤くて丸っぽいもの?……何だろ」
悩むルークを余所に、クラトスは目の前のチョコをにらみつけるように見下ろした。
いたって普通のチョコに見えていたそれらが、今では得体の知れない物体に見えてきたからだ。
赤くて丸っぽいもの。
その表現に当てはまるものを、クラトスは一つだけ思いついていた。
というか、思いついたものがものだっただけに、もう正解がそれにしか思えなくなってきたのだ。
だからこそ狼狽えた。
もしこの推測が正しいのならば、クラトスには絶対に当てる訳にはいかない理由があったからだ。
しかし、そもそもチョコの大きさに比べて中身の大きさが違いすぎると疑問に思ったが、それもすぐに否定する。
何故なら目の前の青年は、ことデザートに関してなら創作していてもおかしくないくらいデザートであり甘いものが好きなことを不本意ながらクラトスは知っていたからだ。
例えば、磨り潰したりチョコ自体に混ぜたり
なんらかの形で混入されている可能性も捨てきれない。
そして忌々しいことに、アレは大きいものから小さいものまで実に様々な種類が世の中には存在しているわけで。
もしかしたら、この目の前のチョコの中にすっぽりと納まってしまうくらいに小さなサイズもあったりするのではないか?
そんな疑心暗鬼からどこか思い詰めた表情で葛藤しているクラトスに2人は全く気付かず、とりあえずは辛いものとか苦いものではなさそうだと安心したらしいルークが、今度は中身を想像して頭をひねっていた。
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