隔離文

□無題
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色んな意味でよくわからない話。

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「…っ…クラトス!」


各部屋とを繋ぐ廊下の途中
背後から躊躇うようにかけられた声に、クラトスは踏み出しかけた足を一回止めるとそのまま半歩後ろへ下げ体ごと少し振り向いた。
クラトスが振り向いたのを確認して駆け寄ったロイドもまた少しの距離を空け足を止めるが、言葉の続きを促すように見下ろされる視線に思わず眉間に皺を寄せると視線を左右に彷徨わせた。
言葉を選ぶように無意味な母音をしばらく繰り返し、軽く深呼吸。


「…なぁ、何か…あったのか?」


先程とは一転、睨み付けるように見上げたもののその力のこもった眼差しとは裏腹に、心配そうにも不思議そうにも見える…そんな曖昧な表情で尋ねてきたロイドに、今度はクラトスのほうが訝しげな表情を浮かべた。


「……どういう意味だ?」


そこに何の意図も含まれていない、ある意味淡々としたクラトスの問い返しに、逆にロイドのほうが狼狽えて再び視線を外す。


「いや…何もないならいいんだ」

「……そうか」


会話終了。
そして、何か言いたい事があったのか口を開きかけるものの結局は黙ってしまったクラトスに全く気付かないロイドは、不満そうに首を傾げていた。


『おかしい。これは間違いない』


何の根拠もないのに胸中でロイドは断言する。


『でも…クラトスは何もないって言うしなぁ……俺の勘違いか?』


口をへの字に曲げ唸っていると、ふと何やら漂う空気が変わった気がしてロイドが視線を上げると、目の前にいるクラトスの視線がロイドを通り越して後ろへと向けられている事に気付いた。
つられてロイドも振り向く先
開け放たれた食堂のテーブル付近で何人かの仲間の姿を確認する事が出来た。
その彼等も、そのうち部屋へと戻る為にこちらへと足を向けるだろう。
いまだそこへ視線を向けているクラトスを余所に、ロイドは再び正面へと顔の向きを戻すと中断していた思考を再開すべく腕を組んだ。


『何か今日のクラトスって機嫌が悪い気がするんだよなぁ。いつも無愛想だけど、今日は特に皺のよりかたが何か違う気がするし。空気も何か変だし。だから何か原因があるんだと思ったんだけど…』


腕を組んだ姿勢のまま更に目を閉じ、わかりやすく難しい顔を作ったロイドは、今朝の光景を追想しながら俯いた。


『もしかして…またゼロスの奴が何かいたずらでもしたのか?……いや、待てよ。もしゼロスがクラトスに何か悪戯を仕掛けたとしたら、その報告を嬉々として俺にしてくるか顔があからさまにニヤけてるはずだよな。でも、今朝のゼロスの顔はいつものニヤけ顔だったから特に不審な点はなかった』


いつのまにか再びロイドへと視線を戻していたクラトスには気付かず、ロイドは更に一人の世界へと入る。


『と、いう事は…今朝より更に前……えーと、確か昨日のクラトスは一人部屋だったから…あの後、夜にどこかへ出かけてその出先で何かあったとか。でも何かってなんだ?クラトスの機嫌が悪くなるようなこと?……嫌いな食べ物を無理矢理食わされた、くらいしか思いつかねー』


何だか難しい難問に当たったかのような顔で、うんうんと唸り続けるロイドをクラトスはただただ黙って見下ろしていた。


「……うーん」

「……」

『…違うな。やっぱり、起きてから何かあったのか?例えば寝呆けてベッドから落ちたとか…って、それは今朝のゼロスか。寝呆けてシーツに足を絡ませて顔から落ちて鼻を打った姿を見た時は笑いをこらえるのが大変だったぜ。結局その後、指さしてジーニアスと一緒に笑ってやったけど。……やべ。思い出したらまた笑えてきた』


今までの思考が一瞬で霧散し、代わりに鼻と額を真っ赤にして床で痛みに悶えていたゼロスの姿がロイドの頭の中で再生される。

……違う意味で困った。


『し…しかも更にその後、床に落ちてたシーツで滑って今度は後頭部を床に打ち付けたんだよな。さすがにここまで続くと何か可哀想になってきて、自分でファーストエイドかけてた事は皆には黙っててやろうと思ったぜ。…それにも笑えたけど』

「……っ」

「……ロイド」


ぴくぴくと頬が痙攣し歪みそうになる口元を必至に抑えつつ、放っておいたら無限に再生されそうな映像を散らすように慌てて首を振る。


『…っいやいや、今は間抜けなゼロスの事じゃなくクラトスの事だよな!えーと……部屋を出て廊下を出て食堂に来るまでの間…確かあの時、俺達が部屋から出たら、ちょうどクラトスとしいながは「…っロイド!」

「うわっ!?な…っ何だよクラトスっ!?」


びくりと肩を揺らし、大きく目を見開いたまま固まるロイドにクラトスは目を細めた。


「…さっきから呼んでいるのに返事をしないお前が悪い」

「……え?あ…と……、悪い。気付かなかった」


うっかり思考に填まりすぎていたらしい。
気まずさを誤魔化す為に頭をかきつつ思わず愛想笑いで返すと、案の定クラトスは重いため息を吐いた。


「……何か悩み事でもあるのか?」

「へ?悩み?……あー…」


向けられた眼差しに戸惑い思わず口籠もってしまったロイドに、クラトスも一瞬躊躇う素振りをした後、真剣な眼差しを向けてきた。


「……今日のお前は、朝から少しおかしいようだが…」


発せられたその言葉に戸惑いの表情から一転、きょとんとした顔でロイドは瞬きを繰り返した。



「いや…俺じゃなくて…、…クラトスのほうこそ、何かあったんじゃないのか?」

「…私が?」

「あぁ」


頷くロイドに、漸くこれまでの不審な態度の理由を察したらしいクラトスが原因を探るかのように視線を斜め下へ送る。


「だって、機嫌悪そうだっただろ」


心配というよりは、理由が分からなくて拗ねてるような声音に、クラトスは暫く考えていたようだが結局思い当たるような理由が特に見つからなかったらしく首を傾げた。


「……いつもと変わりないが…」

「嘘だ」


きっぱりと断言するロイドに、今度はクラトスのほうが戸惑いの色を浮かべる。
誤魔化すな、とでも言うように見つめてくる視線を正面から見返しつつクラトスは言葉を紡いだ。


「……そうだな、お前の様子がおかしいのが少し気になってはいたな」

「……は?俺はクラトスの機嫌が悪そうで気になってたんだけど」

「…別に私は機嫌など悪くないと言っている」

「俺だって、ただクラトスがおかしいから気になっただけだし…」

「……」

「……」


見つめ合ったまま二人で同時に沈黙する。


「……そもそも、あんたのが先に機嫌悪かっただろ」

「お前の様子がおかしかったほうが先ではないのか?」

「はぁ!?クラトスは朝からだろ?俺はそれを見て気になったんだし」

「私も、朝お前の様子がおかしいのが気になっただけだ。…機嫌が悪く見えたのなら、それが原因だろう」


むしろ今までの応酬で機嫌が悪くなりつつあるクラトスに、ロイドは押し黙った。
別に、クラトスの機嫌を悪くしたかった訳ではなく何か原因があるのならそれを知りたかっただけだったのだから、今までの答えで十分なのではないか?と思ったのだ。
それでもまだ疑わし気な視線を向けつつも、最後に念を押す。


「本当に何もないんだな?」

「……そういうお前のほうこそ、どうなのだ」

「俺も何もないぜ?」


その言葉を合図にロイドは安堵の吐息を漏らした。


『って事は、クラトスが機嫌悪そうに見えたのはやっぱり俺の勘違いだったって事か…?』


納得がいったかと言えば嘘になるが、とりあえず心配はないみたいだし良しとするか。と満足気に頷くロイドの姿をクラトスは訝しげに見つめていた。













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そしてループする話。
うーん。クラトスが難しい。

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