隔離文

□無題
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「こうやってルークと、のんびり歩くのは久しぶりだな」

「…そうか?」


普段歩く時、二人とも前衛のせいか結構な頻度で隣を歩いている気がしていた俺は首を傾げるが


「街中を二人で歩くのが、って事だよ」

「…ガイは、街についたらいっつも音機関関係の店に入り浸ってるからな」

「し、仕方ないだろ。好きなんだから」


呆れた口調で言えばガイが必至に言い繕う。それを横目に俺は違う事を考えていた。



だって

街中を二人きりで歩いてるなんて

名目はアッシュへの土産だが

この状況は


まるで



「ルーク、あれはどうだ?」

「……ん?」


意識が逸れる。
そうだ、今はアッシュに渡すものを買いにきてるんだった。
道端に寄るガイの後を慌てて追いかけ、後ろから覗き込む。店員の声を聞きながら品物を物色するが、今一つ決め手になるものは残念ながら見つからなかった。


「うーん…」

「これは保留にして、もう少し先に行ってみるか?」

「そうするかな」


再び歩きだすガイの隣に戻りながら俺は小さく息を吐いた。
ちなみに、ナタリアの料理をアッシュが口にするのは今回が始めての事ではない。だったら、何で今回に限ってこんなことをしようと思いついたのかと言うと、今回はいつもと違い品数が多すぎるというのと、時間の猶予があったから。そして一番の理由は、気紛れなのかもしれない。
多分、アッシュの事だからそれこそ根性で全部の料理に口をつけると思う。が、さすがにナタリアの料理の威力を日常的に身に染みて分かっている側としては、普段がアレであっても思わず同情してしまう…というか、ナタリアを躱せないアッシュが不憫というか。
だから
買ったものを受け取ってもらえなければ、それはそれでいいのだ。だって、これは気紛れなのだから。
むしろ、良心の呵責とかそっちに近いのかもしれない。
謀らずも生け贄にしてしまった事への。


「何か…改めて選ぶとなると難しいな」

「まぁ、俺の考えとしては…ナタリアの料理を食べた後の強烈なインパクトを考えると、その後に口にするものなんてどれも一緒なんじゃないかと思うけどな」

「ははは」


……否定できない


思わず何か苦いものが胃からこみあげてきた気がして、俺は宥めるように自らのお腹を擦った。


「後は…アッシュの好きなものか?」

「アッシュの好きなもの…?」


確かに、好きなものを食べたほうが記憶の上書きは容易かもしれない。
でも、アッシュの好物?
オリジナルだからか、以前好物が被っていると聞いた事がある。
だとすると…肉か?…とも思ったが、ここで新たな問題が一つ。もしナタリアの料理の中に肉系が入っていたとしたら、その選択は逆に諸刃の剣になってしまうのではないかというものだ。下手をすれば、トラウマになって肉系全般が嫌いに…なんて事になってしまってはアッシュが可哀想…な気がするようなやっぱしないような…?とにかく、更に悲惨な事になってしまうのは間違いない。
そして、これも今気付いた事だが、もしかしたらあれらの中に菓子がある可能性だってあるのだ。万が一を考えて、ナタリアの料理を後々連想させないもののほうがいいのかもしれない。となると加工品は除外すべきか。と思い至り、俺はますます頭を悩ませる事になった。
そんな時…ふと、一軒の果物屋が目に止まった。
近づく俺に気付いたガイも後に続く。店頭に並ぶ果物。案外、一番無難かもしれない。でも、インパクトを考えると若干弱い気がしなくもないが…。
店先に来たものの、うんうん唸る俺に横からガイが何やら差し出してきた。


「林檎でいいんじゃないか?ちょうど今が旬の時期みたいだし」


差し出されたつやつやとした赤い玉を見つめる。
ほら。とゆびを指された眼下には山のように積まれた林檎。

美味しそうだ。


………………。


「…じゃぁ、これにするか」


何かもう色々考える事が面倒くさくなった俺は、漸く決まったものに安堵の吐息を漏らした。

















然程離れていない距離を並んで歩く。結局、美味しそうだったので多めに購入してしまった。余ったら、自分達の今夜のデザートにでもすればいい。そこまで考えて、俺は思い出したように隣を歩くガイを振り向いた。


「わりぃなガイ。付き合わせて」

「いいよ。俺が好きでルークについて行ったんだから気にするな」

「うわっ!」


抱える紙袋と反対の手で乱暴に頭を撫でられ俺は照れ隠しにガイから少し距離を取ると、頬の赤さを誤魔化すために早歩きで歩き始めた。
…って、こんな反応したら…


「何か、デートみたいだな?」

「……は?」


勢い良く振り向けば、ガイは笑みを浮かべたまま前方を見つめている。


でーと?



「……」

「気にするな。独り言だから」


顔を凝視したまま立ち止まる俺に、ガイはすれ違いざま頭に手を乗せた。
すぐに離れる手。


「良かった。まだみんな移動してなかったみたいだな」


前方に、ちょうど宿から出てきたナタリア達の姿が見えて、間に合って良かったと息を吐くガイ。
その背中に俺はなぜか焦燥感を感じた。何かを言わなければいけないのに何を言えばいいのか分からないもどかしさ。
でも、漸く出た言葉は彼を足止めさせるには十分だったらしい。


「…っ俺も!」

「ルーク?」

「同じこと…思ってた…」

「……ルーク」

「…きがする」

「えええ」


どっちだよ。と笑うガイに、うるせぇ!と叫び俯く。口元を林檎の入った紙袋で隠すが、きっと晒された頬は林檎みたいに真っ赤になっているに違いない。それが恥ずかしくてナタリア達の所へ走ろうか迷っていると、しょうがないなぁ。とでも言いたげに再び頭を撫でられて立ち止まらざるをえなかった。


「移動し始めるみたいだから、早く追い付くぞ」

「………」

「それとも…ゆっくり歩いていくか?」


そっと握られた手に同意の言葉の代わりに強く握る。
ガイは、分かったように頷くと、さっきよりもゆっくりとした足取りで歩き始めた。その速度は、子供よりも遅いんじゃないかってくらいに遅くて、
これはガイと手をつないでるのが恥ずかしいんじゃなくて、不審な行動をしてるから恥ずかしいんだ!と心の中で言い訳をしつつ、俺は緩む口元を隠しながらただただ俯いていた。












++++++++++++

唐突にガイルクが始まるけど、頭のなかはアッシュのことばかりなルーク。
結局、どっちが好きなんだよと突っ込みたい。そんな話です。
アッシュが出てこないのが悪いんだろな。
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