隔離文

□無題
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※ムラケンが賢者と発覚する前なんで、かなり初期の頃に書いたもの。

小説が原作の二次って書きづらいです。

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澄んだ青空。
爽やかな風が頬を掠める心地よさに、俺は何をする事なくぼんやりと上を眺めていた。

平和ってこういう時の事を言うんだよな。


「此処でしたか」


ふと聞こえた声に視線を空から下げると
名付け親が、俺のいる丘へ小走りに近づいてくるのが見えた。


「ギュンターが髪を振り乱しながら捜し回ってましたよ」


そして断る事無く隣に腰掛けた彼が、同じく視線を空に向け笑顔でそう教えてくれた。


「……うへぇ」


その様子が容易に想像つくのが嫌だ。
教育係は、供もつけずに俺一人だけで外へは出したくないようだけど、城の敷地内だし大目に見て欲しいと思うのは我儘だろうか。


「だってこんなに天気がいいのに、城に閉じこもったままなんて勿体ないじゃん」


光合成ではないけれど、晴れの日は気持ちのいい陽光と風に当たりたいだろう。
地球と何ら変わらない澄んだ青空を見上げる。


「…そうですね」


同じように空を見上げるコンラッドが同意した。

俺はいつしか空から視線を外し、隣にいる彼を見つめていた。
何だか落ち着きがなくなってきて、そわそわと体を動かす。


「…どうかしましたか?陛下」

「陛下言うな名付け親」


お決まりの文句を呟くと彼は軽く肩を竦め、そうでした。と笑みを浮かべる。


「有利」


最近、可笑しい

なにがって、俺が。

今のように彼に名前を呼ばれると、何故だか落ち着かなくなってそわそわと挙動不振に体を動かす。
そして、落ち着くように深呼吸を繰り返した。


「…ユーリ?」


不審そうに顔を覗きこんでくる彼に我に返った。


「やはり城に戻ったほうが…」

「…だっ、大丈夫大丈夫っ!」


赤くなる顔を誤魔化すように再び空へと視線を戻す。
さわさわと揺れる草木の音に自然と気持ちが落ち着いてきた。
今頃は半狂乱だろうな、と教育係の顔が脳裏を掠めた時、蒼かった空が一瞬陰った。


「…………」

「…さて。そろそろ戻りましょうか」


顔を離した彼は、爽やかな笑顔でそう告げると立ち上がり、ズボンに付いた草を軽く払うと何事もなかったかのように丘を下り始める。
俺は、固まったまま呆然と見送った。


今のって…

今のってっ!?


「…こ…ここここ…」

「小腹が空いたんですか?」


そう言えば
もうおやつの時間だったかな

じゃなくてっ!


日差しに当たりすぎて火照った頬。


「…い…今のって…き…き…っ」


その二文字がなかなか出てこない。
真っ赤になる俺を見つめながら、彼は相変わらず笑んだまま。


「き?」

「き…き…っっ」


何処まで純情なんだ俺

案の定、コンラッドは笑みを深くすると、行きましょうかと促して、さっさと丘を下りていく。
それに置いていかれないように微妙に距離を空けて、のろのろと歩きだした。


「……名付け親のくせに…」


くせに何だ

ぶつぶつと呟きながらゆっくりと歩く。
同じペースで距離を離さないまま歩く彼が憎たらしい。

彼は俺の事をどう思っているのだろう?

薫風が鼻を掠める


「ユーリ」


何時までも追い付かない俺に焦れたのか。
彼は少し前で立ち止まると手を差し出してきた。

何かくれるの?
って事じゃないんだろうなきっと

その証拠に俺の頬は瞬時に赤く色づいていて
その手を取る訳にもいかず
かと言って無視するのも気が引けて。
困惑の表情を浮かべていると彼は、しょうがない…というように息を吐き素早く俺の手を掴んだ。


「こ…コンラッド!誰かに見られでもしたら!」


特にプーと教育係の目にだけは何がなんでも避けたい。


「大丈夫だよ。城に入る前までだから」


ね?と言って爽やかな笑顔を向けてくる彼に顔全体が熱くなる。

剣ダコの出来た手は少し堅くて
包み込むように握られた手は心地よくて

ムラケンは元気かなぁ


地球と同じようで違う青空をもう一度見上げながら、遠い故郷へ思いを馳せた。



end







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封印する予定だったのを発掘。

もう書く事はないCPです。

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