隔離文

□無題
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※多分、平日設定だけど矛盾してるので別物。

※中途半端です。

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「ヒビキ君」




校舎の裏庭。
少女が頬を赤らめ俯く。
いつもなら胸を高鳴らせるこの光景。
でも今日の俺は、むっつりとしたまま黙っている。
それは何故か。


「これ…っ」


差し出されたのは綺麗にラッピングされている箱。


「渡して下さいっ」

「……どっち」

「キラ先輩に」


今日はバレンタイン


でも、渡されるチョコは全て兄二人宛てのものばかり。
むしろ、それしかない。


………泣いていいだろうか。















深々とため息を吐きながら教室に入ると、ルナマリアが近づいてきた。


「おはよ、シン。朝から大量ね」


……嫌味か?


その視線の先は俺の腕の中。
大雑把に数えても十個は越えているそれ等は、裏庭から教室までに渡された分だ。
その間、約5分。
しかも全部頼まれたもの。


「…ルナ。袋とって」

「はいはい」


ばらばらと袋へ入っていく箱達を見送ると、俺は心底疲れたように椅子に座った。


「お疲れさま」

「…そう思うんなら、代わってくれ」

「いやよ。何も得なことないじゃない」

「………おい」


即答してきた彼女に思わず半眼になるが反論する体力と気力はなくて、すぐに机に懐いた。
本当に疲れた。
でもまだ朝は始まったばかり。
いつもなら気持ちのいい筈の青空が、今日は恨めしい。


そもそも


なんで今日という日に限って二人とも休みなんだっ!



机にべったりと懐きながら窓ガラスから見える空を睨み付ける。






今日この日
二人はそろって休みだったりする。

二人というのはもちろん、俺の兄二人
アスランとキラだ。

で、なぜ二人そろって休んでいるのかというと、昨日からキラが風邪を拗らせて寝込んでいるからだ。
それについては俺もすごく心配しているから、キラが休むというのは賛成だ。
むしろ休んで一日でも早く元気になって欲しい。
だが、キラが休みということは当然過保護なアスランももれなく一緒に休むということで。
絶対確信犯だアイツっ。と呪咀を吐いても仕方ないだろう。
確かにキラ一人家に残していくのは心配だ。
今朝もまだ熱が高かったみたいだし。
でもそれとこれとは別問題で。
アスランの事だ 。
キラが心配なのは本当だが、今日という日が面倒臭かったのもあるに決まってる。
もし風邪を引いたのがアスランだったら、特に今日は尻を蹴ってでも登校させようとしたが、キラだったからアスランが休むのも渋々だが認めざるを得ない訳で。


チクショウっ


ぐるぐると吐き出せない怒りがこみあげてくる。
チョコを渡してくる奴等も奴等だ。
どうせ何日かしたら二人とも登校してくるんだから、チョコはその時にでも直接渡せばいいだろう!
…なんて言ったらきっとルナマリアが、女の何だかを分かってない!と反論…というよりは説教してくるに違いない。



「シン。いつまでもへたれてないで。…はい」


ルナの言葉にのろのろと顔をあげると、目の前には箱。


「……ルナ?」


一瞬、心臓がどきんと鳴る。


「よろしく」

「………へ?」


箱を下げたルナは、にこりと笑った。


「アスランさんに渡して」


お前もかっ!


お前こそ本人が来てから渡せよ!と言ったのだが、今日渡さないと意味がないのよ。と無理矢理押し付けてくる。
今朝の惨状を見ていたのなら、少しは親友のことも労ってくれ。って思ったが、疲れていたので黙って鞄にしまった。
袋に一緒に入れたらまた煩くなるからだ。
何だか追い打ちをかけられた気分で再び机と仲良しになる。


「後、これもね」


ぽこっという音とともに頭に何かが当たった。
ゆっくりと顔をあげ頭に手を伸ばすとまた箱。
そのまま目の前まで持って行くと、箱は箱でもさっきとは別の箱が。


「義理だけどね」

「……ルナ」


嬉しいような虚しいような何だか複雑な表情で彼女を見つめる。
毎年くれるから義理だとはわかっているが、それでもちょっと嬉しい。


「毎年あげてるからね。で、これはキラさんに。……あ、レイ!おはよ」


彼女の声に振り向くと教室の入り口には登校してきたレイの姿が。
そして彼の手には大量のチョコ。
ルナマリアの声で俺達の姿に気付いた彼は、相変わらずの無表情で近づいてきた。


「おはよう」

「レイも毎年大変ねー」


けらけらと笑う彼女とは反対に、俺は仲間を見つけたような哀れみの眼差しを向ける。
そういえば彼もモテるんだった。
だが、惨状は俺とそう違いはない。
思わず肩をぽんと叩いて、お互い大変だなと言いたくなったが、頷くだけに止めておいた。


「はい。レイにも、義理だけど」

「あぁ。ありがとう」

「三倍返し期待してるわ」

「…義理なんだろ?」

「二倍でも構わないけど」

「……努力する」

「って事でシン、アンタも忘れないでよ!ちゃんとアスランさんとキラさんにも渡してね!」

「………わかってるよ」


やりあう気力がなくて素直に頷いた。








休み時間になる度に代わる代わる渡される箱。
数を数えるのも億劫になってきた。
ただ黙って受け取り黙々と袋へと入れていく。
クラスメートの男子が何だか羨ましいんだか妬ましいんだか同情なんだかの視線を向けてくるが、そんなに羨ましいんだったら代わってくれ!と訴えたら即効で視線を逸らされた。


……後で覚えてろ。


帰りに下駄箱と兄達の机の中のものも回収しなければならない。
考えただけで憂鬱すぎる。







帰る頃には俺はかなりげっそりとしていたようで、ルナマリアに散々笑われた。




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