隔離文

□無題
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初期のディノヒバを発掘したんで、記念にこっそりと。

ハマった直後に書いたんで、指輪編辺りです。
当時書いたのをそのまま載せてるんで、可笑しな部分には目を逸らして下さると嬉しいです。
これ以上、手を加えると更に可笑しくなる自信がある。
雲雀一人称は無謀な挑戦でした。はい。


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誰もいない校舎の屋上。

その冷たいコンクリートの上に、いつものように腕を枕にして仰向けに寝転がる。
太陽の熱と吹き抜ける風の心地好さに、誘われるように欠伸が零れた。
人の気配が一切しない世界。
視界はフェンスで囲まれた空。
青一色。
穏やかで
けれども、ひどく退屈な日常の刹那の時間。
視界に障害物はなく、目の前に広がる青に浮かぶ白い固体は、ゆっくりとゆっくりと形を微妙に変えながら視界を右から左へと横切っていく。


…退屈だ。


目蓋が下がり始め、それと同時に視界もじょじょに狭まってくる。
授業中なのもあってか、耳障りな話し声も聞こえない。
既に夢の世界へ片足を入れている所為で、気付いていないだけなのかもしれないけれど。
陽気に包まれた空間でのこの静寂は所詮、眠気を誘うものでしかない。
浮き沈みを繰り返す意識に始めは抗っていたけど、今度は無駄に抵抗するのを止めそのまま沈み込む。
世界が急速に遠ざかり、ふわりと浮き上がり、墜ちる感覚。

それから、数分経ったのか数秒しか経っていないのか。
ふと、遠くから階段を登る単調な足音が聞こえてきた。
ぱちりと目蓋を開けると、ちらりと入り口へ視線を流す。
右手は自然とトンファーの位置を確認中。
先も告げた通り、今は授業中。
故に、この屋上に一般生徒が上がってくる確率は限りなく低い。
当然、自分が此処にいる事によって上がってくる可能性が一番高い部下達も今は授業中。
此処は学び屋であるから、外部の部外者は領地内への立入すら禁止されている。
と、なると…残る可能性は極僅か。

否。
唯一の例外があった。

最近頻繁に姿を見せるようになったカレ。
自称、家庭教師。
お前を鍛えてもっと強くするのが俺の役目だ!とか、実にフザケタ事を言っていた外国人。
それは、何の為に何の必要があって…とは、聞いていない。
その辺の成り行きを詳しくは知らないし、知る必要もないから。
それでも彼は、何やら必死になって説明していたけれど、面倒臭いから全て聞き流した。
ただ、赤ん坊の名前が出たのが少し気になったけど。
あの赤ん坊が関わっているとなると、きっと退屈しない面白い事なのかもしれない。
同時にそれはまた、あの後輩達絡みの事でもあるのだろうと思うと、少し不愉快な気持ちになる。
それとは別に、群れるのは嫌いだけれど、あの赤ん坊の頼み事ならば少し位は我慢してあげてもいいかもしれない。と、思う気持ちが少しだけあるのもまた事実だ。
それ位の価値が、あの赤ん坊にはあるのだと思っている。
だからと言って、群れるのを良しとするかは、また別の問題だ。
例の彼に関しても、何だかんだで拒まないのは、そこらで群れる草食動物達よりも強かった事と赤ん坊の知り合いだという肩書きが原因なのだろうと思う。
実際、幾度となく戦ってきたけれど
彼に負けた事はなかったし、これからも負けるつもりもないけれど、彼が一般的なレベルに比べれば遥かに強いのは認めている。
負けた事はない。
けれど、咬み殺せた事もない。
思い返してみれば、彼の体や顔に此方からの攻撃が擦りはしても、まともに入った事などそういえば、まだなかった気がする。
そこまで考えて、ふと耳が再び微かな足音を捉えた。
その音は段々と近づいてくる。
時々、リズムが狂っているのが少し気になるが。
多分…というか、感じる気配が間違いなく彼だ。
そんな、知り合いと言えるのかどうかさえ怪しい相手を此方から出迎えるなんて馬鹿な真似を、自分がする筈もなく。
一つ大きな欠伸を洩らすと、迷いもせず再び目蓋を下ろした。


「お。やっぱり此処にいたのか」


案の定。

躊躇いもなしに開けられた屋上の扉から聞こえてきたのは、軽快な男の声。
嫌でも覚えてしまった声の持ち主に、やっぱり扉の前で待ち伏せして咬み殺してやるべきだったか…と、少しだけ後悔したが、きっと彼の事だ
そんな不意打ちの襲撃ですら、僅かな殺気を感じ取って苦もなくトンファーの直撃を交わすに違いない。
それに今は、常になく眠気がすごくて体も動かなかったし億劫だったから…なんて、まるで自分に言い訳をするかのような思考が浮かんできて、一瞬眉を寄せる。
だからと言って、彼が傍に来るのを許した訳ではないのだけれど。


「…寝てんのか?」


漸く気付いたらしい男の声が頭上から聞こえてくるが、そのまま沈黙は続き。
でも、やけに上からの視線を感じ、その欝陶しさに重い口を開き声を発した。


「……何か用」

「何だ。起きてんじゃねーか」


寝たフリか?と落ちてきた声に、起きてるんじゃなくて寝る所なんだよ。と心の中で答える。


「…だから。用件は何」

「用事がないと、お前に会いに来ちゃダメなのか?」


何故それを僕に聞く?

そもそもこの男は、わざわざ僕に会いに来たというような口振りではあるが、実際はあの後輩達に会いに来たのがメインなのだろう事は、簡単に予想出来た。
だから、後輩達へ顔を見せに来たついでに此方へも顔を出した…という言い訳のほうが余程、辻褄が合う。

そう考えた所で。

何故か、もやもやとした例えようのない変な気持ちになり、そんな自分に苛立って黙って脳から彼の存在を遮断しようと口を閉じた。




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