隔離文
□無題
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※映画設定。
諸事情で封印してましたが、表に出す事にしました。
資料が見当たらないので、最終確認していません。
もし可笑しな箇所があってもスルーして下さい。
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ぱたぱたと少年は足早に階段を駆け上がる。
そして木製の扉を開けると、軋む音をたてて閉じるのを待たず更に奥の部屋へと駆けて行った。
「兄さん」
ひょっこりと扉から顔を覗かせれば、それまで背を向けて作業していた青年が声に気付いて振り向いた。
「アル、おかえり」
そう言ってふわりと綻ぶような笑みを浮かべるその人に、僕も思わず笑みを浮かべると荷物を手に部屋へ足を踏み入れた。
「ただいま。買い物はこれでいいの?」
「あぁ。重かっただろ?」
「平気だよ。これでも体力には少し自信があるんだ」
「そうか」
右腕を突き出し力瘤を誇示するかのように示すと、兄さんは眸を眇て嬉しそうな優しい表情を浮かべた。
それは記憶にあるのとは違い、随分と大人びた表情。
テーブルの上に荷物を置くと、部屋の中を忙しく動き回っている兄さんを複雑な思いで見つめた。
2年間という月日は結構長い。
その間に兄さんは少年から青年へと変化し、あんなに伸び悩んでいた身長もそれなりに伸びた所為か十分、大人に見える。
最も周りと比べれば、まだ幼い感じは抜けきれていないが。
短気でせっかちだった性格も、心なしか少し落ち着いた気もする。
それなのに
それでも変わらないのは未だに鋼の手足。
ふと逸らした視線の先
本棚に一つの写真立てがあった。
そこに写る2人の青年
一人は兄のエドワード・エルリック
もう一人は、アルフォンス・ハイデリヒ
兄さんがこっちの世界で一緒に同居していた人だ。
僕がこちらの世界に来た時には、既に彼は帰らぬ人となっていたので、生前に直接的な面識はない。
兄さんがいうには彼がこちらの世界の“僕”らしい。
「アル。これ運ぶの手伝ってくれ」
「うん」
土へ還る前に一度だけ見た彼の顔。
眸を閉じてはいたけれど、僕の後数年後であろう姿をした彼は、自分から見ても瓜二つの顔で
あの時は本当にびっくりした。
「重いけど大丈夫か?」
「もう。大丈夫だってば」
あちらの世界で、お互いの生死さえ分からないまま別れた僕達。
そんな状態で、生死不明の弟と瓜二つの顔をした彼といつも一緒にいた兄さんは、一体どんな気持ちだったのだろう?
「其処でいい」
「じゃぁ下ろすよ」
二人で住むには十分な広さの部屋。
この部屋の主はハイデリヒさんらしい。
詳しくは聞いていないのだけど
もともと此処に住んでいたハイデリヒさんの所に、兄さんが転がりこんでそのまま面倒を見てもらっていたようだ。
二人の出会いはまだ聞いていないが、彼の顔を見た時兄さんはきっとびっくりしたと思う。
思わず、初対面の人相手に名前で呼んでしまったりしなかったのだろうか
「こんなもんか。…助かったよ、アル」
「他に手伝う事ある?」
「…いや。後は、あれを片付けるだけだ」
尤、その頃の僕は忘れた4年間の記憶と、生死すら不明だった兄さんを探す為に当てのない旅をしていたのだけれど。
確かにそこにある空白の2年間。
何で僕が兄さんと一緒じゃなかったのだろうか
「兄さん、あの部屋だけど…」
「あぁ。……少し、整理しないとな」
僕の言葉に頭を掻きながら淋しそうな表情を浮かべる。
兄さんは、ふとした瞬間に彼の痕跡を見つけては哀しそうな痛そうな…そんな表情を浮かべていた。
それを見る度に、僕はいつも目を逸らしたくなる。
僕が兄さんを探して旅をしている間、僕の知らない2年間を兄さんとハイデリヒさんは過ごしていて
僕が生身の体を手に入れたとも生きているのかもわからない状態で…しかも、戻れる保障もなく違う世界に飛ばされて、きっと精神的に不安定であっただろう兄さんを支えたのは紛れもなく彼だ。
彼は僕なのだけど
彼と僕は違う人間で
兄さんは僕の兄さんで
今までいつも一緒だったのに
何だか悔しかった。
「…どうした?アル。やっぱり疲れてたのか?」
考えに耽って少しぼけっとしていたようだ。
心配そうに顔を覗きこんでくる兄さんに笑顔で返す。
「大丈夫だよ」
その言葉に、ホントか?というような疑いの眼差しを向けてくる。
こうなると、兄さんは中々疑いを晴らしてはくれない。
僕は気持ちを切り替えるように話題を変えた。
「そうだ兄さん!今晩の夕食何にしようか!」
「夕食?そうだなぁ。お前は何が食べたい?」
「兄さんは?」
「俺は何でもいい」
「だったら、シチューにする?」
昔からの兄さんと僕の大好物。
そう言うと兄さんは、しょうがないな。とでも言うように破顔した。
悩んだってしょうがない。
あの2年間は長かったけれど
あの日々がなければ“今”を過ごす事もなかっただろうし
これから先、また二人きりの旅が始まるのだから
end
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当時、映画を見て思わず書いた代物。
本命カプが事実上別離しちゃったのはある意味ショックだったけど、兄弟が一緒で嬉しかったのは覚えてる。