隔離文

□無題
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※裏とは別の意味で注意。
暴力、血な表現有。
色々矛盾してますが、雰囲気で察して下さい。

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だったらこの銀色を己の視界から消してしまえばいい



ひゅっと喉を痙攣させながら細く息を吸う音に、少しだけ我に返った。
それと同時に絞めていた指から力を抜けば、手の中に捕えた銀色が急に大量に息を吸い込んだ所為か苦しそうに咳き込んでいた。

あぁ苦しかったのか

抵抗を押さえ込む為に乗った腹から響く振動に、ぼんやりとそんな事を思う。
完全には手を離さず、依然軽く締め付ける程度の強さで触れたままの細い肉からは、どくどくと忙しない血の流れを感じて
確かに生きている手の中のソレに、無性に気持ち悪さを感じて片目を細めた。

「………ぁ…」

苦しげに薄く瞼を開き口唇から漏れる擦れた声は、それを封じ込めるように再び締め始めた指によって、それ以上の言葉が紡がれることはなく
代わりに白い喉が指から逃れるように、僅かな曲線を描いて仰け反った。

あぁ

ひどく気持ちがいい

相手の全てが今、己の手中にあるのだと思うと、高揚する気持ちと共に嘲笑が込み上げてきて、自然と歪んだ笑みを浮かべる。

汚してやりたい

このまぶしいくらいに

まっしろなきれいないきものを

血で真っ赤に…真っ黒に染めたい

喉に添えていた片方の手をゆっくり上へ這わせる。
顎を撫で辿り着いた白い頬。
一筋走る刀傷に、強く人差し指を擦らせるとまだ渇ききってない血が指先に付着する。
赤いそれを一度目の前に持ってきて確認してから、ゆっくりと口元へ運び、見せ付けるように舌を下から上へ向けて這わせた。
舌に乗る甘いそれに満足し、再び手を喉へ戻すついでに今度は顔を近付けると、直接舌を傷口に這わせる。
痛みにか息を飲み、嫌がるように反らす顔を追いながら、何度もなぞった。

「…も……やめっ……」

その声に、顔をゆっくりと離す。
痛みにか瞳を潤ませ揺れる赤い瞳に、歪んだ笑みを向けた。

いとおしい

添えたままの親指をぐっと薄い皮膚に食い込ませると、手の中のそれがぴくりと動いた。
尚も力を込めると、喉を仰け反らせて嫌がるように白銀の毛を畳に擦り付けて首を振る。
けれど
そもそも外す意思があるのかないのか
己の腕にまるで添えるかのように先程から触れたままの白い手は、時折反射のように力はこもるけれど
引き剥がせる程の力は籠もっていない…否、もうそんな力すら残っていないのかもしれない。

あぁ

壊したくてたまらない

欲の赴くまま更に力を込める。
またぎゅっと少しだけ己の腕を掴む手に力がこもった気がした。

もっとくるしんで
もっとあえいで
もっとみにくくあがいて

そして泣きながら縋ればいい

苦しい。と

助けてくれ。と

許してくれ。と

死にたくない。と


君の苦痛に歪む顔が綺麗で

醜くて

この煩わしい生へと繋ぐ音が途絶えた刹那の君は

きっと己の愚かな頭で想像するよりも遥かに醜く

そして美しく散るのだろう


ぞくりと何かが背筋を伝わった。


いっそのこと

このまま

首の骨を圧し折ってしまおうか

目を限界まで見開き、怯え苦しみ歪み恐怖と憎悪の表情を浮かべ、俺だけをその赤い瞳に映したまま逝くのかと思うと歓喜に震えが止まらない

そして自らもまたその姿を脳膜に焼き付けたまま、腹に刀を突き刺してみようか

きっと君の真白に己の汚れた赤が映えて
より一層綺麗になるに違いない


それは至福の瞬間


欲望の赴くままに指に力を込め、知らず浮かぶ恍惚とした己の狂気を現したかのような笑みを見て何を感じたのか
下にいる銀色は予想とは違い、一瞬哀れむような色を瞳に浮かべ力なく微笑んだかと思うと、その濁りかけた赤い瞳をゆっくりと目蓋に隠した。
遅れてだらりと白い手もまた畳へ落ちる。
呼吸が煩い。
視線をずらすと、腕にうっすらと指の跡がついていた。
思いの外、強い力で握られていたらしい。
再び視線を正面に戻す。
仰け反ったままの喉に色づく赤い痣。
指を伝わる消えそうなゆっくりとした鼓動。
何故かさっきから震えが止まらず、喉を締めたままの状態で強ばる指をゆっくりと引き剥がすと、そのまま赤い跡を指の腹で撫でた。
そのまま下り、はだけた着物から覗く鎖骨を通り更に下へ。
たどり着いた心臓の辺り
ぺたりと肌の上へ直に手のひらを付けると、どくどくと先程とは違う力強い鼓動を肌に感じて安堵に似た吐息を吐いた。


消せる筈がないのだ
最初から


心臓の上の皮膚に立てた爪が肉に少し食い込む。
僅かに開いた口唇は言葉を紡ぐ事はなく開いたまま息を紡ぎ、代わりにきつく瞳を閉じた。


壊したい
犯したい
汚したい
離したい
愛したい

こんな感情

こんな醜い劣情

独占欲なんて可愛いものではない

もっと破壊衝動を伴った

殺意にも似た執着のようなそれは

まるで…



喪われた筈の片目がじくじくと痛みを訴える。
包帯を解き掻き毟りたい衝動に耐えられず顔へ手を伸ばすが、ふとそのまま下へ下ろした。
畳に散らばった銀色の毛先を一房指先で摘み遊ばせ
そして
少し血の気の引いた薄い唇を人差し指で撫でる。

「……銀……」

閉じたまま開かない目蓋。
自分の下にある生温い肉体。

「……………」

無意識に漏れた己の声を塞ぐように
胸の奥の刺が刺さったような小さな痛みを無視するように
僅かに紡がれる吐息さえも奪うように
そのまま身を屈め口唇を塞いだ。



きっと俺は


この感情を一生理解する事はない







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多分、最初で最後であろう高銀。
映画化記念に古いのを掘り起こしてみました。

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