隔離文2
□無題
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※何か微妙になったのでボツ。
※ルドジュと言いたい。
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地面に描かれた黒い絵。
その縁の真上をゆったりとした歩調で辿る。
寂れた公園の色んな所で揺れている影を見ながらふらふらと歩く少年。
ふと足が止まった。
少年はゆっくりと腕を水平に伸ばす。
そして、斜め後ろを確認しながら再び微調整を繰り返すかのように腕の方向を変える。
再びやや前方を見下ろし、ようやく満足したのか笑みを浮かべていると、先程からその不審な挙動を黙って見守っていた青年が躊躇いがちに声をかけた。
「…何してるんだ?」
「…?あ、ルドガー」
声の主に気付き振り向いた少年が腕を下ろす。
その場から動かない少年に焦れた青年が近寄った。
「…で?何してたんだ?」
「影遊びだよ」
「影遊び?」
聞き慣れない言葉だったのか首を傾げた青年に少年は行動で示す。
「こうやって……、ポーズを取るだけの一人遊び」
そう言って、奔放に、楽しそうに影の淵に沿って歩く少年。
ふと地面へと視線を下ろせば、少年の影がまるで木の外郭上を飛び跳ねているように見える。
ようやく少年の挙動の意味に気付いた青年が納得したように顎に手を当てた。
「…ふーん?」
理由は理解はしたが共感が出来なかったのか、視線が戸惑いからか揺れている。
そんな青年に少年が手招きした。
木の影の輪郭付近に立っている少年の隣に躊躇いがちに青年が並び立とうとした所で、何故か手で制止される。
そして、斜め後ろを指された。
少年の人差し指の先と地面とを視線が往復し、意図が分からないままに一歩後ろに下がれば再び不審な挙動。
「…ほら。ルドガーより大きい」
得意気に言われ視線を移せば、そこには同じように木の中腹に立っているのだが青年が少し下がっているのと足元が葉で見えないせいか、確かに少年のほうが背が高いかのように見える影絵。
しばし見つめたあと困惑に瞳を細めた。
「何か俺……木にめり込んでないか?」
「そういうのは見ないフリをするんだよ」
「それに、ジュードのほうが俺より上のほうにいるし…」
「そういうのも見ないフリをするんだよ」
ふらりと少年が移動する。
「ほら。ここに立つと、まるで木の天辺に立ってるみたいじゃない?」
影の木の天辺辺りに立ち嬉しそうに笑う少年。
つられて青年も笑った。
「ジュードなら、本物の木の天辺に上がれるんじゃないか?」
影ではなく背後の木を指差せば、少年は幼い仕草で怒りの動作をとる。
「それは言わない約束でしょ」
腰に手をあてれば青年が肩を竦ませて苦笑した。
背後に立つ木を振り仰ぐ。
風に枝葉を揺らす木。
「まぁ、飛ぶのはいいとして…立つには安定性がないよね」
背後からぽつりと呟かれた声。
振り向けば、上にいくにつれて細くなる枝葉へと真剣な眼差しを向けながら何やら考え込んでいる様子の少年。
「ジュードなら軽そうだし乗れそうだけどな」
「僕だってそれなりに体重くらいあるよ。でも、ミラやミュゼならいけるんじゃないかなぁ」
「…いや、あの二人は対象外だろ」
「精霊だからね」
乗るというよりは浮く?って感じになりそうだもんね。…なんて。
2人で想像して苦笑する。
「僕は、ここで我慢するよ」
少年が影の頂点を踏んだ。
「ルドガー、こっち」
手招きに青年が再度近づく。
「手、伸ばして」
「…こうか?」
「んー…、もう少し左」
「……ん」
何やら指示を出し微調整を繰り返す少年に、青年は疑問に思いつつも素直に従う。
「……よし。完成」
「おぉ…!」
完成した影絵へと視線を落とせば、まるで青年が少年を殴っていかのような構図。
しかし距離に差があるせいか、若干の違和感がある。
「これなら、実際にそういうフリをしたほうがいいんじゃないか?」
こう。と言って、少年の側まで近寄り頬スレスレで拳を出せば、否定するように首を振られた。
「分かってないなぁ。その形のままを影に映らせただけじゃつまらないでしょ」
この遊びは、一見そうは見えないポーズを取っているのにも関わらず影には違った構図で映っている。っていうのが面白いんだから。
その言葉に青年は感心したように頷いた。
「俺が悪かった」
「わかれば宜しい」
同時に吹き出した。
その後、周りに人がいないのをいいことに二人で様々なポーズを取った。
その度に試行錯誤しては真剣に悩み、違和感に笑ってはまた違うポーズを考える。
「…思ってたより意外に難しいな」
「でしょ?」
まず立体を平面に考えて、陽の差す角度も一緒に考えなくてはいけない。
気付けば、何だかんだで夢中になっていた。
「ほら、ジュード」
「え?」
何かを思いついたのか、青年が腕を持ち上げる。
手のひらを上へ。
すると、まるで青年の手の上に少年が立っているかのような影絵。
「……あ」
「ジュードは軽いな」
「ルドガーは力持ちだね」
腰に手をあて片手で少年を持ち上げる影絵に笑う。
あらかたネタが出尽くしたのか、そろそろ宿へ戻ろう。と声をかけようとした少年に、青年が再び指示を出した。
「ジュード、横向いて」
「え?……こう?」
「もう少し下」
「下?」
言われた通りに移動する。
しかし、指示通りに移動したにも関わらず横を向いたままただ立ち尽くしている青年に不思議に思いつつ影へと視線を向けた少年は、息を飲んだ。
黙って影を見下ろしている青年。
揺れる葉影の隙間に隠れるようにみえる影絵。
それは
まるで
キスをしているかのような。
見間違いかと思い再び青年へと視線を戻せば、一心に視線を影へと固定したまま立っている青年。
逆光にちらりと見えた染まった頬。
まるで伝染したように火照る頬を誤魔化すように、少年は青年へと一歩足を踏み出した。
――――――
風に揺れる葉の音。
ジュードは我に返ったかのように目を開いた。
一瞬にして色彩が色褪せたように感じる公園に、瞬きを繰り返す。
相変わらず人気のない公園。
ジュードは止めていた足を動かした。
乱れる前髪を手で抑えながら一本の木の前に立ち止まる。
見上げたまましばらく動かなかったジュードは地面へと視線を落とすと、その黒い淵を辿るようにゆっくりと歩きだした。
数秒で天辺へと到着する。
後ろ頭に当たる陽の光がじわじわと照りつける。
手を広げ無意識に振り向くが、誰もいないことを確認して落胆したのかジュードは瞳を揺らすとやがて両腕を下ろした。
影が揺れる。
「ジュード!」
「……エル?」
名前を呼びながら公園の入り口から駆け寄ってくる少女にジュードは緩慢な動きで振り向いた。
怒ったような表情で駆けてきたエルはジュードの傍で立ち止まると、乱れた息を整えるように体を揺らし拗ねたようにリュックの持ち手を握った。
「もー。すごい探したし!」
「…えーと?ごめんね」
「で、なにしてたの?」
彼と同じように首を傾げる仕草にジュードの瞳が一瞬細まった。
風に揺れる葉を映す影絵。
少年と少女の影。
「影遊びだよ」
「影遊び?」
今度は反対へと首を傾げるエルにジュードは苦笑した。
「そう。…ところでエル、僕に何か用事?」
「あっ、そうだった!レイアとエリーゼが探してた!」
ぴょんと背筋を伸ばし後方を指差すエルに今度はジュードが首を傾げる。
「二人が?…何だろ」
「とにかく、早く行こ!」
「…ちょっ、エルっ!?」
天辺にいた少年の腕を少女が掴み、まるで空中歩行をするかのように空を走り去っていく影。
やがて静寂が訪れた公園で変わらぬ影絵だけが揺れていた。
end
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