その他2

□野良猫への憂慮
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※時間軸は特に決めてないです。

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「よぉ、久しぶり」

片手を上げて、昨日会ったばかりのような気軽さで声をかけてくる。
それは、いつも前触れなく訪れる再会。






下町へと続く緩やかな坂道。
活気溢れる店と人々を眺めながらゆったりとした足取りで坂を下って行く。
顔見知りが多いせいか時折かけられる声に返事をしながら歩いていると、前方から何やら歓声のような声が上がった。
騒ぎか、と一瞬身構えるが、方々から聞こえだした名前に出しかけた足を止め目を見開いた。
思わず立ちつくしていると、まるで花道のように前方の人垣が割れる。
そして、その中心。
一際目立つ人物が視界に入ってきた。
それを視認しつつも黙って立っていると、先に気付いた彼が振り向いた。
片手を上げ、ゆったりとした足取りで近づいてくる青年に向き合う。
騒めきが、まるで遠くなったかのように聞こえない。


「…おかえり、ユーリ」

「ただいま」


交わす視線は一瞬で十分だった。
それを機に、再び戻った音に目を細める。


「怪我は…なさそうだな」

「まぁ、見ての通りだ」

「僕もいつも通りだ」

「言われなくても、お前の心配はしてないさ」


肩を竦める青年に苦笑を返す。
君は気紛れな猫のよう。
こっちが会いたいと思っている時は行方知れずで、その衝動が治まって再び落ち着いた時にふらりと現れる。


「いつ帰ってきたんだ?」

「ついさっきな」


足元にいるラピードを撫でる。
手の甲に見覚えのない切り傷。
服で隠れているその体にも、傷が増えているのだろうか?
無茶をしていないだろうか?
厄介ごとに巻き込まれていないだろうか?
彼の事となると心配事が尽きない。
出来れば一ヶ所に留まっていて欲しい…というのが、紛れもない本音だ。
けれど
自由気儘に世界を駆け回って生き生きとしている彼の姿が好きなのも事実で。
その矛盾にもやもやしている内に、また彼は旅立ってしまうのだろう。


「…なんだよ」

「何が?」


訝しげに細められた目に首を傾げる。


「見つめすぎだろ」

「…そうかな」


どうやら不躾に見つめすぎたらしい。
誤魔化すように笑みを浮かべる。
そんなことすらお見通しの君は、呆れたようにため息を吐いた。


「女にそれやったら、誤解するからやめろよ」


思わず真顔になった。
こんな心配、君以外にする訳がないだろ。


「だったら、君にはいいんだな」


返答が予想外だったのか目を瞠る君。


「女の人には誤解されるんだろ?」


でも君には誤解されずに伝わるのだから問題ないじゃないか。
そう続ければ、呆れからかもしくは照れからか憮然たる面持ちで君は肩を落とした。


「…んなこと、一言もいってねぇよ」

「今言ったよ」


すぐに、ばか。という言葉が返ってきて思わず笑った。



今までもこれからも、彼は変わらずに世界を駆け回り決して一ヶ所に留まってくれないだろう。
彼に鎖は似合わない。
そして、自由気儘に気が赴くままに世界を歩き回る君の噂を耳にするたびに、動けない僕はヤキモキするに違いない。
それでも
ほんの少しでも郷愁を感じたとき。
その目的地として、僕のところに迷わず帰ってきてくれるのなら。
僕もまた、いつでも笑顔で君を見送り遠ざかる背中に手を振れるだろう。
そうして、ほんの少しの後悔と見送れることへの安心感と多大な心配とを滲ませながら、たまに君のことを思い出してはこの街で暮らしていく。

そしてまた、おかえりと言えればいい。
君がただいまと言ってくれる限り。










end










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