その他2

□誘眠
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※同じシチュエーションでテイルズ3作。第六段。
『睡眠』
※時間軸は決めてないけど多分、親子バレ後。

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小春日和というのに相応しい穏やかな天気の午後。
宿から少し離れた所にある特別高くも大きくもない木の上。
男はそこにいた。
それを発見したのは本当に偶然で、木の上にいる男を見つけた俺はとりあえず近づいた。
近づいた後で困惑した。
木の幹に寄りかかるように体を預けている男は、まるで昼寝をしているかのように見えたからだ。
場所に驚いたのか男が昼寝をする事に驚いたのかは分からない。
木の下より木の上のほうが確かに陽が当たるぶん暖かいだろう。
しかし、冬に近づくこの季節ではいくら暖かいといっても外の空気は何処か尖り風も冷たい。
仮に昼寝をするにしてもあの場所は適当ではないと思うのだが、もしかしたら昼寝以外に何か理由があるのかもしれない。
そんなことを考える。
いやしかし
そう思わせての案外普通に昼寝…という可能性もなきにしもあらず。
何と言っても彼は“天使”だ。
もしも体感温度を自由に調整できるのなら、今日のような日は彼にとっては陽が当たる暖かい日なのかもしれない。
それって日光浴?という疑問は提起しないでおく。
“天使”と知る前から、何故かこの男には俗っぽい事は似合わないと常々思っていたからだ。
だからか、どこか植物っぽい気がするんだよなぁ。というのも口にしないでおく。
そんなくだらない事をつらつらと考えたが
結局、黄昏たい気分なのだろうという結論に至った。
要するに、考えるのが面倒くさくなったのだ。


「…たまにアンタって変な所にいるよな」

「…そうか?」


ただの独り言のつもりだったのだが、返事は思いの外はっきりと頭上から落ちてきた。
もしかしたら寝ていたわけではなく瞑想していたのかもしれない。


「なぁ、そっちにいってもいいか」


いい加減、上を向きすぎて疲れてきた首を僅かに下げながらお伺いをたてれば無言で返された。
無視された訳ではないと思う。
何故なら、暗黙の了解というものを俺は最近知ったからだ。
…というのは半分冗談で。
実際のところは単純に返事に困っているというのが真実だろう。
多分、俺が怪我をしたら…とかそんな事を考えて迷っているに違いない。
過保護…と言いたいところだが、むしろ過保護ではなく子供扱いな気がする。
いや、実際まだ子供だけど。
そして、無口だと思っていたのも最近では発言に慎重なのかもしれない、と思い始めた。
もっとも、口下手なのも寡黙なのも間違いではないだろう。
むしろ、俺という息子に対して慎重なのか…、いや。やっぱり単に寡黙なだけなのかもしれない。


「…無言は了承と受け取るからな」


強引にそう締めるのだが、それでも返事がないので勝手に頷くとさっそく登るために枝に手をかけた。
重さに軋む枝に構わず、腕で体重を支えながら一気に上半身を持ち上げる。
足場を代え枝から枝へと移り順調に登っていけば、頭上から複雑な表情を浮かべた男の顔がようやくはっきりと視界に入ってきた。
もしかしたら、さっきのは了承ではなく保留の意味での無言だったのかもしれない。
といっても、ここまできてしまったのだから仕方ない。
そのまま登り進め、彼のいる枝から少し下の枝で一息ついた。
ふと見下ろせば、意外に地面までが遠くて驚く。
そして彼の隣へ行こうと改めて見上げたが。


「…二人で座るには狭いな」


結局もう一段上がったところで彼と同じ体制に落ち着いた。
相変わらず男は何か言いたげな視線を向けてくるが、何も言わないので無視する。
前方には葉の隙間から見える風景。
冷たいと思っていた風も葉に遮られるせいか、ここからだとそんなに気にならない事に気付いた。


「寒いと思ったけど意外とそうでもないな」


思わず目を閉じる。
そこで、ようやく男が重い口を開いた。


「ロイド、危ないから眠るなら降りなさい」


こちらへ移動しようとしたのか僅かに木が揺れ、咎める声が聞こえる。


「寝ないよ」


そう言いつつも、止められなかった欠伸が思わず出てしまった。
予想以上に気持ちがいい。


「…ロイド」


二度目の注意。


「…わかってるって」


わかってはいるのだが、この場所は本当に予想外に居心地が良すぎた。
首が揺れる。
陽の温かさとかすかな風の心地良さがいけない。
そしてこの場所は妙な安心感がある。
この男の近くだから…、とはまだ認めたくないけれど。
それでも
仮に自分が寝てしまって、うっかり落ちそうになったとしても絶対に助けてくれる。
そういう信頼だけはこの男に対して持っているのは確かだ。
むしろ、それで十分じゃないか。
俺は静かに目蓋を下ろした。








end









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