その他2

□深夜の誤差
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※同じシチュエーションでテイルズ3作。第六段。
『睡眠』

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自分の部屋で何をするでもなく一人立ち尽くし眉間に皺を寄せながら思案するさまは、端から見ればとても自室で寛いでいるようには見えないだろう。
それもそのはず。
部屋の主たる自分は、ある意味では難題である目の前の光景に若干困惑していたのだから。


「……寝相が悪いにもほどがある」


どうしてこうなった。

まさにその言葉を体現するかのような格好で親友が寝ていた。
この部屋の持ち主たる僕の部屋の…僕のベッドで。
それは別にいい。
不法侵入云々は今更な事だし、主たる僕が侵入方法はともかくとして彼がここに居る事に対して特に問題視していないからだ。
そして、部屋の主がいない間に我が物顔で僕のベッドで寝ている事もまた、残念ながら今まで全くなかった訳ではない。
では何で困惑したのかというと、この状況に違和感…というより、引っ掛かりを感じたのだ。
そう。
引っ掛かり。
何に感じたのかと言うと、彼の寝相に、だ。
まるで途中で力尽きたかのような俯せの状態だったのならまだ良かったのかもしれない。
しかし彼は、俯せではなく仰向けだった。
尚且つ、毛布の上に寝ているのだ。
前述の通り、気付いたら勝手にベッドで寝ている彼だが、それでもいつもなら僕が寝られるスペース分は必ず空けて普通に毛布に包まって寝ているのだが、何故か今日は毛布の上。
まるで倒れこんだかのように。
まさか前後不覚で後ろへ倒れこんだ先が偶然ベッドの上だった。なんてことは…ない…と思いたい。
もしそうなら別の問題が出てくるからだ。
不意に湧いた可能性に念のため確認するべく近寄る。
鼻に手を当て規則正しい呼吸を確認する。
次いで、視線を移した先の彼の胸も規則正しく上下していたし顔に特別赤らみもない。
とりあえず安堵のような吐息を吐いた。
と、なると
残るは俯せから寝転がって仰向けになったという可能性だが…彼の長い髪が比較的均等にシーツの上に広がっている事と乱れやすい彼の服装が全くといっていいほど乱れていない事から推測するに、これは違うと断言していいだろう。
更に情報を追加すれば、彼はベッドの端で片足と片手をはみ出した格好で仰向けで寝ていた。
念のため全身に視線を移すが、これといって怪我をしている様子もない。
ただ、落ちたほうの足は痛くないのだろうかというのが気がかりだった。
真っ先に目に入るのはまず不安定に落ちている太股だ。
ベッドの高さもあって足をおろしても決して90℃にはならない。
要するに少し浮いているのだ。
いくら意識がないとはいえ、つらくないのだろうか?
なんて考えてしまうくらいに中途半端な格好で寝ていた。
……と、長々と観察し考察してみたがそんな事よりも最優先といっていいほど重要な問題があった事を思い出した


「ユーリ!起きろユーリ!」

「……んぅ」


むずがる仕草。
寝ている彼を起こすことに罪悪感…は、残念ながら今更なのでこれっぽっちも感じないが彼を起こすか位置をずらすかしないと自分の寝る場所を確保できない。
ご丁寧にも腕は広がっているし。
これは、もしかすると嫌がらせだったのだろうか?
仰向けなのもわざと?
新たに浮上した疑惑に一瞬動きが止まった。
一度上体を起こすと思案する。
その間わずか5秒。
結果、場所がないのなら作ればいい。とにかく眠い。という結論に至った。
彼の意図は起きてから確認すればいい事で。
それよりも自分の寝場所の確保のほうが大事だ。
寝ている彼をそのままにベッドに上がる。
まずは、くしゃくしゃになって彼の下敷きになっている毛布を奪還するべく端を掴み引っ張り出した。
かなり強引に引いたから体も一緒に動いているのに全く起きる気配のない彼。
次いで彼の腕をずらすとそのまま体全体を少し端へと押しやり、ようやく空いたスペースに体を横たえ一息ついた。
決して広くはないが仕方がない。
何だか収まりが悪くて更に無縁慮に彼の体を押す。
これだけやっても起きない彼に僕は少しだけ感心した。
もしかしたら疲れているのかもしれない。
と、いうことは寝落ちだったのだろうか?


「……まったく」


色々動かしたせいで顔にかかる髪の毛が気になるのかしかめ面の彼。
僕はそっとその髪を払いのけると、彼の体を横向きになるように転がし後ろから抱え込むように引き寄せた。
何だか甘い匂いがする。
寝ているせいか体温が上がっていて暖かい。
毛布が彼にもきちんとかかっているか手探りで確認した後、そのまま彼の項に鼻先を埋めた。
このまま抱きしめた状態で一夜を明かし、果たして彼は朝起きてまず第一声に何を言うのだろうか?
それを聞くことができないのがとても残念だ。
そんなことを思いながらも意識は沈んでいった。








end










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