その他2

□休憩所
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※同じシチュエーションでテイルズ3作。第六段。
『睡眠』

※ほんのりルドジュ。

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「……さすがに完徹3日目はきついなぁ…」


そんな呑気な感想を、霧がかったようなぼんやりとした意識の中で呟きながら廊下をあてもなく進む。

借金返済の移動制限のため数日前から滞在している宿。
閑散としている昼間。
その廊下を特に目的もなく歩いていたのだが、ふと目に入った天井からぶら下がるロビーへと案内看板に行き先はあっさりと決まった。
頭がふらふらするとか眠いとかを通り越して、今はむしろ逆に頭は冴えているようだ。
多分、いま実際にベッドに横になったとしても体は休息を摂りたいのに頭が冴えて眠れない。…なんて矛盾した状態になるに違いない。
さて。どうしたものか。とロビーに到着はしたが、やはりぼんやりとした頭で立ち尽くしていると


「あ、ジュードみーっけ!」

「エル?」


後ろから喜色の混じった声をかけられた。
振り向けば宿泊部屋に繋がる廊下から走ってきた少女が、真っ直ぐこちらへと駆け寄ってくる姿が目に入る。


「もー!どこいってたの!?」

「え!?…どこといわれても…」


正面で立ち止まるなり、それまでとは一変して怒ったような表情で見上げてくる少女。
会うなり何故責められるのかわからなくて戸惑うが、どうやら彼女は自分を探していたようだ…という事だけは分かった。
それなら、ふらふらと歩き回らず部屋で大人しくしていれば良かったな。と殊勝な気持ちで腰を曲げると、改めて少女と視線を合わせた。


「えーと。僕を探していたのなら、ごめんね?」

「…べつに怒ってないし。それより、ジュードひま?」

「暇…というわけではないんだけど…」


急な話の転換に反応が遅れ思わず言葉を濁す。
やはり頭がぼんやりしているようだ。と考えていると、少女は何やら頷き小さな手を伸ばしてきた。


「ひまなら、こっちきて」

「え?」


やや強引に手首を掴まれ引かれるままに歩きだした。
そのまま来た道を戻り始めた少女の後頭部をぼんやりと見下ろす。
何処へ向かっているのか気にはなるが、それよりも手を引かれて足早に歩かされることによってたまに目眩のように視界が揺れる事のほうが、結構重要な問題だったりする。
あまり動かさないでもらえるとありがたいのだけれど…なんて、彼女に言ったところで無意味だろう。
いらない心配もかけたくないし黙って着いていく…否、黙って連れて行かれる。
客室の並ぶ廊下を迷いもなく進み、とある部屋の前で少女は立ち止まった。


「…ここ!早く入って」


急かすように手を引かれるが、少女が急かす先の部屋の番号を見上げて足を踏み出す事を躊躇った。
確かここはルドガーの部屋だったような?
一度首を傾げてから少女を見下ろす。


「エル、この部屋「もー、いいから早く!」」

「うわっ」


思案している間に少女が開けたのか中から誰かが開けたのか、気付けば開いていた扉。
その部屋の中へと押し込むように背中を押されたたらを踏んだ。
慌てて顔を上げるが、部屋の中には誰もいない。
という事は、少女が鍵を使って開けたという事だ。
そもそも少女の部屋割りは、今回はいつもとは違い彼と一緒ではなかったはず。
と、いうことは


「エル。他人の部屋に勝手に入ったら「ルドガーだからいいの!」」


ダメだよ。と続けようとした語尾はまたしても遮られた。
確かに、少女がこの部屋の鍵を持っていたということは彼の許可を得ていたのだろう。
しかし、少女はいいとしてそれ以外の者が無断で彼の部屋に入るのは、いくら仲間だからといってもさすがに不味いと思うのだが…と眉をひそめて難色を示したのだが、そんなこちらの気持ちを察してはくれない少女は素早く扉を閉めると、ぱたぱたと部屋の中央へと駆けていった。


「ジュード!ここ座って!」


何を言っても梃子でも動かなそうな彼女の意志に諦めたように息を吐いた。


「…わかったよ」


部屋の主である彼が戻ってきたらとりあえず謝ろう。と頭の片隅に記憶しながら中央に置いてあるソファーの前へと移動する。
そして改めて窺えば、依然強い視線を向けてくる少女の眼差しに促され大人しく腰を下ろした。…ところで、何故か彼女が太股の上へと乗ってきた。
そして横へとぐいぐいと押される。


「……エル?」


このまま一緒に倒れては困ると腕を突っ張り体を支えたのだが、結局は斜めから押される力に耐えきれず少女ごとソファーへと横倒しになった。
慌てて仰向けになれば、狙ったかのようにお腹を跨いで座った少女が後方へと振り向き呼ぶ。


「ルル!」

「え?……ぅぐっ」


待ってました、とばかりにどこから現れたのか部屋の主の飼い猫は視界の端から現れたかと思うとそのふくよかな体躯でジャンプする。
そして、着地点である胸の上へと飛び乗られ一瞬息が詰まった。
思わず咳き込むと少女が慌てて身を乗り出した。


「ジュード、重い?」

「え?」


心配そうに見下ろしてくる少女と素知らぬ顔の一匹。
正直、少女より猫のほうが重かったりするのだが。
そんな心の声が聞こえたのか不満そうに一鳴きするルルと、泣きそうな表情になってきた少女に思わず苦笑する。
圧迫感は変わらないが、大人しく乗っている分には然程苦痛を感じない。
だから


「大丈夫だよ」

「……ほんとに?」


疑うような納得していないような…そんな不満そうな顔。
そんな少女に苦笑混じりにもう一度頷けば。


「…なら、いいけど」


そう呟いて何やら陣取っていたお腹から尻を浮かせると、寝そべるように体を背もたれと右脇の隙間にねじ込んできた。
少女の意図が掴めず少し体をソファーから落ちない程度にずらせば、ようやく落ち着く体勢を見つけたのか肩に頭を預け欠伸をもらした。


「エル、眠かったの?」

「べ、べつに眠くなんかないし!たまたまジュードが眠そうにしたから、添い寝してあげようと思ったの!」


白衣を掴み頬を染めて必死に言い募る少女に思わず笑みが零れそうになるが、機嫌を損ねてはいけないと黙って同意する。
もしかしたら彼がいなくて寂しいのかもしれない。
ふとその事実に思い至ってから、ようやく部屋の主の行方を思い出した。

確か今日はアルヴィンと一緒に何だかよく分からない親交を深めるためだとか何とか言ってクエストに行ってくる、と昨日言っていた気がする。
討伐依頼だったら同行を申し出ようと思っていたのだが、何だかんだと作業している内に二人は出てしまったらしい。
他のメンバーも見当たらないので、彼らと一緒に行ったか各々所用で散らばったのだろう。
そして、ここにいる少女もいつもなら彼が受けるクエストに同行しているのだが、宿に残されたということはクエストの内容に何か問題があったのかもしれない。
どちらにしても、出遅れた者と残された者がこうして今一緒に寝ているのは必然なのかもしれない。
まるで拗ねたように寝転がり、眉根を寄せたまま瞼を閉じている少女に笑みが零れた。


「…ねー、ほんとに苦しくない?」

「んー…。むしろちょうどいいかな…」


触れた頬から伝わる振動に脇の辺りが少しくすぐったい。
胸の上で丸まるルルの場所をお腹側へと下げると深く深呼吸をする。
重みと右側の温かさのせいかだんだんと眠くなってきた。
本当なら、少女が風邪を引いてしまうのでベッドへと運ばなくてはいけないのだけれど
思った以上に限界だったらしい体はまるで泥沼に沈んだかのように重く鈍くて

要するに、気付いたら意識がフェイドアウトしていた。








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