その他2

□軌跡を辿る旅
1ページ/14ページ


※ネタバレ注意。
※TOX2を書くなら、このネタで一つは書きたかった。

+++++++++++++











…此処は何処だろう?


目覚めてまず始めに湧いた疑問はそれだった。
“目覚めて”と表現したが、そもそも何故僕は瞳を閉じていたのか。
まず、そこから思い出さなければいけなかった。
というのも寝た記憶そのものが曖昧だったのだ。
いや。それも少し違う。
曖昧というより、ベッドに上がり毛布に包まるなりどこかに体を横たえるなりの動作をした記憶がなかった。というのが、この場合一番正しい。
一番高い可能性の一つとして、多忙さ故に気絶するかの如く椅子に座ったまま倒れたか、もしくは机に突っ伏したまま意識が落ちたという可能性については否定しないけれど。
とにかく、いつのまにか寝ていた僕は何かに覚醒を促されたのか結果的に瞼を持ち上げた。
そして、始めに視界に飛び込んできた光景がこの一面の草原だったという訳である。
…うん。意味が分からない。
何故、目覚めた僕の姿勢が直立だったのか?
何故、知らない場所に立っているのか?
これが、僕がまず始めに寝た記憶そのものを疑った最大の要素だったりする。
一瞬、夢遊病の可能性も疑いたくなったがそれはとりあえず端のほうに置いておくとして。
何故かというと、このどこか長閑な空気と自然溢れる景色は一見すればエレンピオスというよりはリーゼ・マクシアのようではあるが、それ以前に『これは夢だ』と、僕は自らの置かれた状況を漠然とした感覚で理解していたからだ。
それなら寝た記憶がないのも目覚めたら直立だったのも説明できる気が…しなくもない。
…と、言っても夢を夢としてここまではっきりと認識したのは今回が初めてだけれど。
こういうのを明晰夢…と言うのだっただろうか?
そんな訳で、これは夢であると僕は認識していたが、そう納得していてもやはり拭えない矛盾に無意識に首を傾げる事になるのだが、それもまた今はどうでもいい。
夢なのだから何でもありなのだろう。の一言で全てが丸く収まるのだから。

そうこう考えている間も、時折撫でるように掠める風や草木の匂いは夢にしてはやけにリアルで。
心地のいいそれに目を細めるとその場にしゃがみこんだ。
足元にある草花に触れてみると、案外はっきりとした触覚を指先に感じて再び首を捻る。
が、すぐにその違和感も霧散した。
そもそもこういうものは、自身の体験を元に脳内で勝手に構築されているものらしいから、先程の触覚も嗅覚も今までの僕の経験を元にした記憶の一部を再現しているだけに過ぎない……なんて。
案外、夢って言葉は言い訳としては楽だなぁ。なんて呟く。
さて、これからどうしようか。と相変わらず場面の変わらない一面の草原の中でぼんやりと立っていると、後ろで風によって奏でる音とは違う故意に踏まれて出たような葉音がした。
振り向くと、いつからいたのか数歩先の距離に見知った青年が驚いた表情で立っていた。


「……ジュード?」

「……ルドガー?」


お互いに呆然とした声音。
それもそのはず。
見知った相手ではあるが、本来であればそれはあり得ない邂逅だった。
当たり前だ。
『彼』は、彼女を救うために自らの命を削って消えてしまったのだから。
しかし、ここは夢の世界。
だとすると、自分は夢でもいいから彼に会いたかったのだろうか、それとも脳が彼の情報を元に記憶を反芻しているだけなのか。
どちらにしても、もう一度見られるとは思っていなかった彼の姿に込み上げるものがあった僕は、未だ呆然としたまま立ち尽くしていて彼もまた理由は分からないけど驚愕しているような表情を浮かべていたが、その後すぐに破顔した。


「…もしかして、また迷子か?」

「またっていうか…、…そうかも?」


思わず否定しかけるが明らかに自分の夢だと認識しているのに、一向にここが何処なのか分からない状況を思えば、確かに彼の言うように迷子ともいえる…かも?なんて思い直しそう答えれば、何やら考え込んでいた彼が一つ頷いた。


「…よし。ジュード・マティス君」

「え?」

「君に重大任務を与える」


まるで、旅の最中にエルがルルや他の猫達に命じていた時と同じ仕草で腰に手をあてる彼に瞬きを繰り返した。


「決してみんなにバレてはいけない重要な任務だ」


何故か真面目な顔で声を潜めるように耳元に囁いてきた彼に、僕も思わず神妙な顔で頷いた。


「それを達成するために必要なアイテムを、まずは君に進呈しよう」

「…アイテム?」


何処から取り出したのかいつのまにか彼の手に握られていたそれ。
差し出されたので反射的に受け取ったが、どう見てもピコハンだった。
念のため裏返したり軽く振ってみるが、やはりピコハンだった。
ただし、柄は記憶にあるより若干長い気がする。


「ロングピコハン2号だ」

「ロングピコハン2号…」


誇らしげにそう応えて頷く彼に単語を反復する。
…そういえば、彼の武器の中にそんな名前の武器があったような?
気付けば彼の手にも同じものが握られていて、あれが一号かな?と思っている内に、彼がピコハンを持つ手を振り上げた。


「よし!さっそく行くぞ」

「…え、ちょっ!?ま…って!」


掛け声と同時に、空いている反対の手を握られそのまま走りだした。
草が生い茂る不安定な足場で、もつれる足を何とか動かし彼と同じ速度で走る。
不意に振り向いた彼の顔は何だかわくわくしているような笑顔で、僕もつられて笑みを浮かべてしまった。
そのまま草原を走りぬけ林道を更に抜けた先、前方に見えた草原とちょうどその境にある茂みの側で立ち止まった彼に、僕は手を引かれるまま隠れるようにしゃがみこんだ。
目の前には、先程の草原とはまた違う花が咲き乱れる草原。
その少し盛り上がった丘の上で、女性が二人こちらに背を向け何やら楽しげに話していた。
その右側。
風に揺れる金髪と後ろからでもわかる特徴的な跳ねた癖毛。


「……ミラ」


僕は思わず呟いていた。
左側にいる羽の生えた髪の長い精霊もまた見覚えのある姿で。
これから先、再び会えるかどうか分からない彼女達の姿にただただ目を見開いて固まっていた。








_
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ