その他2
□東風
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※ほのぼの。
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「寒いーっ!」
薄着の体に、まるで体当たりするかのように吹きつける寒風に無意識に身を竦ませる。
心なしか縮こまるようにして歩く少年とは対照的に、隣を歩く青年は寒さを感じていないかのように平然と歩いていた。
むしろ隣の少年の様子が気に掛かるのか、時折視線を向けては眉をひそめている。
一際強く吹いた風に歩みも鈍くなり腕も擦りだした少年に、青年がとうとう声をかけた。
「…これも羽織るか?」
「いや、いい」
にべもなく断られマントを掴む手を不自然に止めた所で、鼻の頭を擦った少年が再度青年へと顔を向けた。
「それを借りたら今度は俺がクラトスを見てて寒くなるから、いらない」
言い直されたその言葉に一瞬目元が緩みかけるが、再び吹きつけた風にくしゃみをした少年の姿に我に返りマントへと手をかけた。
「風邪をひかれるほうが、皆の迷惑だ」
「んー、大丈夫。そんなに寒いわけじゃないから」
そう言いつつも、やはり少年は身を竦ませたまま体を両腕で抱くようにして歩いている。
その斜め後ろを、ずれたマントを直しながら青年もまた歩き出した。
若干足早に石畳の上を進む。
変わらず冷たい風に、先へと逸る気持ちとは裏腹に少年の足の運びは重い。
疎らに建つ建物へと時折恨めしげな眼差しを向けながら黙々と歩く。
「っうー!寒い!」
「…ロイド」
無意識に口から出ていた言葉に対し、咎めているようで心配そうな色を滲ませた青年の声に少年はため息をついた。
「だから、本当に大丈夫だって」
「………」
「えっと…ほら、何かノリ?みたいな感じで寒いって言ってるだけだから」
強い視線を感じつつも少年が言い訳をする。
そしてほとんど間を置かず再び発せられた、寒いー!の叫びに青年はやはり困惑したように見下ろした。
互いの吐く息が白い。
ちらりとそれを確認した少年が苦笑を浮かべた所で体の軸が不穏な感じに振れた。
「…っお、わっ!?」
「っロイド!!」
案の定、足と体が意思とは裏腹に移動した。
要は、盛大に滑った。
「っいってぇー!」
一瞬の浮遊感。
衝撃。
脳が揺れたのと同時に尾てい骨をうつ。
痛みに耐えるように呻いている傍らで、すぐ横に移動した青年が腰に曲げた。
「気を付けろ。石畳は凍結しやすいから、この時間は滑りやすい」
「うー!……けついたい」
「打ったのか?」
「…うん」
「手を出しなさい」
少年が素直に手を上へと伸ばせば、力強いが…けれども労るようにゆっくりとした動作で起こされた。
思ったより冷たい青年の手が気になりつつも、しっかりと自らの足で立ち上がった少年は上体を反らし腰を伸ばした。
打った所を撫でようとしたのか、青年の手が持ち上がりかけて不自然に止まる。
「…歩けるか?」
「足を痛めたわけじゃないから平気」
それでも、痛みだしたお尻を撫でつつ慎重に歩きだす。
負荷がかかったせいか股関節も痛い。
「尻いたい」
「仕方なかろう」
「…ついでに寒い」
「ついでなら大丈夫だな」
先程とは違い、マントにすら手を伸ばそうとしない青年。
微かに笑った気配を感じた少年が隣を睨んだ。
ファーストエイドをかけるか?との言葉に少年は不貞腐れたように、いらねーよ!と吐き捨てる。
「…アンタが転んでも絶対助けてやらないからな」
「そうか」
慎重に歩く少年の歩調に合わせてか、ゆったりと歩く青年。
「指差して笑ってやる」
「そうか」
青年の隣をぴたりとくっつきながら歩く。
「…アンタのそういう所が嫌い」
今度は、はっきりと青年の口元が笑みを刻んだ。
end
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