その他2

□2013・V.D記念
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※2ヶ月遅れの今更なVD話。

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特にこれといった用事もなく
かといって外に出るつもりもなかったのだが、何となく足を向けた宿屋のロビー。
階段を降りた先、視界の片隅に見知った集団を見つけたアルヴィンは足を止めた。
ロビーの片隅で何やら談笑している少女2人と一匹?
見かけたもののその輪に混ざるどころか、ましてや邪魔をするつもりは全くなかったので、いっそのこと見なかったことにするか…それとも見かけた以上は軽くでも声をかけるか
少しの躊躇い故の足止めは少女達にこちらの姿を認識させるには十分な間だったようだ。
まずレイアが気付き、エリーゼもつられて振り向く。
その時点で見なかったふりをする選択が出来なくなったアルヴィンは、とりあえず手を軽く上げた。


「こっちだよー!」


まるで待ち合わせに遅れたかのような気安さで呼ばれ、体裁として項をかいたアルヴィンは少し前の逡巡さなどを感じさせない足取りで近寄った。


「何してんだ?」

「暇だったからエリーゼと話してた」

「ジュードを待ってるんです」


その言葉に、一応ロビー内を見回し少年の姿がないのを確認する。


「ふーん。で、肝心の優等生はどこ行ったんだ?」

「買い出しに行ったよ」

「何か足りないものでもあったのか?」


買い出し自体は昨日すでに済ませている筈なので、当然の疑問だった訳だが。


「チョコを買いに行ったんです」

「チョコ?」


予想外の単語にアルヴィンは反復した。


「ジュードが手作りのチョコをくれるんです!」

「もうすぐバレンタインだからね」


バレンタイン。という言葉に、そういえばもうそんな時期だったか。と納得しつつも更に疑問がわく。
文脈が間違いなければ、ジュードがバレンタイン用のチョコを買いに行った。ということだ。


「………何で?」

「だから、バレンタインでしょ?」


それこそ何で?とでも言いたげに首を傾げるレイアの横から、妙に瞳を輝かせたエリーゼが身を乗り出してきた。


「ミラがすごく楽しみにしてました!」

「僕達も楽しみだけどね!」


嬉しさを体で表現するかのようにくるくる回るティポ。
エリーゼの期待に満ちた瞳の輝き。
少年の作るチョコ菓子がよほど楽しみらしい。
それはさておき


「おたくらも作るのか?」

「何を?」

「チョコとか、菓子」

「何で?」

「それこそ何で」

「特に作る予定はありませんよ」

「だって、ジュードが作るんだよ?それで十分じゃない」


はっきりと言い切られて、アルヴィンのほうが逆に口籠もる。


「ジュードの作るお菓子は美味しいから楽しみです!」

「だよねー!」

「確かになぁ。…って違うだろ!?」

「どうしたの?アルヴィン君」


顔を見合わせて頷く少女二人に一度は同調したがすぐに我に返ったアルヴィンが、何かを振り払うかのように頭を振った。


「今、違和感なく普通に頷きかけたけど。何で男のあいつがチョコ作っておたくら女子が貰うほうな訳!?」

「えー?別に男が女にあげちゃダメな決まりなんてないし」

「そういうの差別っていうんだぞーっ!」

「そうです!男尊女卑ってローエンが言ってました!」


まさしく非難轟々の体に、思わぬ反撃を食らったアルヴィンが後退った。


「さいてー」

「さいてー」

「サイテー」

「…いやいや、そういうことでなくてな!?確かにあいつは無駄に女子力高いけど。でも、一応性別は男だろ…貰いたいんじゃねぇの?」


据わった目の少女達に心の中の脆い何かが挫けかけるが、意を決して足を踏ん張り主張すればレイアとエリーゼが顔を見合わせた。


「ジュードは何も言ってませんでしたよ?」

「…あいつが催促する性格か?」


むしろ遠慮するだろ。と言ったものの、本当に全く気にしていない可能性もなくはない。とアルヴィンはこの場にいない少年を思い出して苦笑した。
それと同時に、幼なじみでもあり仄かにでも少年に対して好意を抱いているレイアが少年に対して全く何もあげないというのも、それはそれで意外な感じもしたが、それを指摘する前にレイアが提案してきた。


「仕方ないなぁ。アルヴィン君が欲しいなら私達も今日作ろうか?」

「いや、俺は「…ジュードだけでなく私とレイアのチョコも欲しいなんて図々しいです」

「アルヴィンのくせに」

「…何気に一番傷つくんですけど」


がくりと分かりやすく肩を落とせば、ティポが頭に体当たりしてきた。
衝撃に軽く頭が揺れる。


「…ってのは冗談で。ちゃんと用意してるって」


ティポの体を手で払い顔を上げる前に、レイアに結構な強さでもって背中を叩かれた。
今度は前につんのめる。


「ジュードから貰うのに私達から何もあげないわけないじゃないですか!」


アルヴィンと違ってエリーゼは図々しくないからね。とのティポの追撃は、物理的にも脇へと押しやることで無視した。
それを余所に少女達は楽しそうに意気投合している。


「渡すものを考えるだけでも楽しいもんね」

「ドロッセルと交換するんです」

「ねー」

「ねー」


両手を合わせ、再び話に花を咲かせる少女達。


「…へー。ミラ様も?」

「うん。と言っても個別じゃなくて、みんなで食べられるものを3人で作るの」

「そのほうがお金もかかりませんから」

「確かにな」

「もちろん、みんなにも作るよ。だからジュードのは今日食べて、私達のは三日後にしたんだ」

「楽しみにしていて下さい」

「びっくりするようなすごいの作るから!」

「驚いて腰抜かすなよー」


腰に手をあて何やら自信満々に宣言するレイアとティポの発言に、どの方向にすごいのか。と突っ込むべきかアルヴィンは少し迷ったが、この場は聞かなかったことにした。
少女達の会話に水を差すような無粋な真似をしたくなかっただけであって、決して藪蛇を避けるためではない。


「…まぁ、その……、あまり頑張りすぎるなよ」


それでもせめてもの抵抗としてアルヴィンに言えた言葉はこれだけであった。
と、そこへ宿屋の入り口から見慣れた少年が姿を現した。
こちらが声をかけるより先に気付いた少年が、荷物片手に駆け寄ってくる。


「ただいま」

「おかえりジュード」

「待ってましたー!」

「おかえりなさい」

「お疲れ」


各々労いの言葉をかければ、近くまで駆け寄ってきたジュードがアルヴィンを見て次いでその周辺へと視線を移動させた。


「ミラとローエンは?」


ジュードの視線が再びアルヴィンへと向けられた。


「…さぁ?俺は姿見てないけど…、じーさんは散歩じゃねぇの?」


アルヴィンは微かな記憶を探ってみるが、やはり二人の姿を見ていないのは事実だったのでそう言って肩を竦めれば、ただの確認だったのかジュードは頷くと今度はレイア達へと顔を向けた。


「きっと夕方には帰ってくるよね。…それじゃ、僕は宿のキッチン借りてくるね」

「とても楽しみです!」

「どんなのが出来るのかなー」

「ジュードが作るのなら何でもいいよ。絶対においしいから」


そんな期待に満ちた眼差しと声にジュードは照れ臭そうに笑んだ。


「はは。凝ったモノは作れないけど、みんなの期待に添えられるように頑張るね」


そう言って荷物片手に立ち去るジュードの背中を見送ったアルヴィンは、何やら考えるように宙へと視線を向けた後再び盛り上がり始めた少女達に気付かれないように、静かにその場を辞した。










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