その他

□回顧する幻影
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※CP色薄いです。
※設定はED前だけど、ほのぼのとしてます。

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アッシュは呆気に取られた表情で、目の前にそびえ立つように存在している白い固まりを見上げていた。
固まり…というか雪だるまである。
しかし、決して雪だるま自体に驚いた訳ではない。
問題はその大きさにあった。


「……でかいな」


無意識に口から出ていた感想に、真剣な眼差しで側面を雪で補強していたルークが満面の笑みで振り向いた。


「だろ!?すっげぇ頑張ったからな!」

「…というか、どうやって作った?」


頭から下へ…また頭へ…と視線を動かしていると、手についた雪を払いながらアッシュの横へと移動してきたルークが首を傾げた。


「え?普通に雪を丸めてに決ま…、もしかしてアッシュ、雪だるま作ったことないんじゃ「あるに決まってるだろ!」」


最後まで言わせずに語尾を遮ると、その勢いのままにすぐ横で、驚愕!といった表情で凝視してくるルークの頭へと拳を下ろした。


「いっ…っ!っ何ですぐ叩くんだよ!」

「お前がくだらないことを考えてるからだ」


痛みからか即座に頭を抱えてしゃがみこむ赤い頭頂部を、アッシュは蔑むような眼差しでもって見下ろした。


「…ったく、すぐ暴力に訴えるんだから」

「てっとり早いだろ。お前には」


涙目でしゃがみこんだまま不貞腐れたようにしばらく後頭部を撫でていたルークは、やがて一つ大きなため息をつくと緩慢な動きで立ち上がった。
そして、指先で前方を示す。


「…そこ、後ろに台があるだろ?」

「台?」


雪だるまが大きすぎて気付かなかったが、確かに雪だるまの後ろに台座らしきものが少しだけ見えているのをアッシュは確認した。
多分、もとは銅像か何かを設置していたのかもしれないが訳あって上の銅像だけを撤去したのか、これから設置予定なのかその台座自体が何かの彫像だったのか。
雪にまみれた台座が確かにぽつんと存在していた。


「下の雪玉は普通に作って上の雪玉は台の上で作って、こう…転がして乗せた」

「…なるほど」


とは答えたが、言うほど容易くはないだろう。と、身振り手振りで説明するルークを横目にアッシュは再度雪だるまを観察した。
乗せるだけにしてもあの大きさの固まりならかなりの重労働だが、それ以前にバランスとか比重とか色々気になる…なんて考えていると、背後の遠方から少女の声が聞こえてきた。


「ルーク!いい感じの枝見つけたよー!…って、あれ?」

「お。さんきゅー、アニス」


振り向き手を振る事で応えるルークを余所に、数本の枝を片手に駆け寄ってきたアニスは何故か訝しげな表情で二人から少し距離を置き立ち止まった。
そのまま無言で見上げてくる眼差しに耐えきれなくなったアッシュは、渋々と口を開く。


「…いたら悪いか」

「えー?別にー?ただ珍しいと思っただけだし。…それより、始めの頃よりだいぶ形が丸くなったね」

「へへ。だろ?アニスが枝を探しに行ってる間に頑張ったからな」

「うん、かなり雪だるまらしくなったよ」

「アニスが手伝ってくれたおかげだな」

「もー。落ちてる枝を見つけるのに、この寒い中かなり捜し回ったんだからね!」


わざとらしく腰に手をあて頬を膨らませるアニスに、ルークは受け取った枝を片手に苦笑した。


「悪かったよ。その辺の枝を折る訳にはいかなかったからさ」

「当たり前だよ!…まぁ、探すのもトクナガがいたから、そんなに大変じゃなかったけどね」


そう言って肩を竦めたあと、ルークが手にしている枝を指差した。


「この位の枝の長さがあれば、あの大きさの雪だるまに刺しても見劣りしないでしょ?」

「そうだな。アニスが手伝ってくれて本当に助かったよ。思ったより早く完成しそうだし」

「本当にね。こんな大きな雪だるま、ルーク一人じゃ夜になっても完成しないに決まってるよ。肝心な時にガイもティアもいないしさぁ。偶然発見しちゃったアニスちゃんに感謝してよね」

「はは…」


尊大なアニスの態度にルークが引きつった笑みを溢す中、アッシュは一人納得したように瞳を細めていた。
確かにトクナガなら、台座を使う必要もなく大体の作業が事足りると思ったからだ。


「でも本当…アニスがいてくれて助かったよ」


邪気のない笑顔を向けられたアニスが、うっと言葉に詰まった。
そして何か言いたげに口を数回動かしたかと思うと諦めたように口を閉ざす。
次いで気まずそうに視線を彷徨わせた先、たまたま視界に入ったアッシュへと矛先を向けた。


「…それより、アッシュは何でここにいるの?」

「…いたら悪いか」

「別にー?って、これさっきも言ったし。…えーと、とりあえず枝を刺しちゃおうよルーク」

「ん?…そうだな」


雪玉の側面に近づいたルークが、崩さないように両手で枝と雪玉との接合部に手を添えながら慎重に枝を刺していく。
ある程度まで刺した後にその穴から広がる割れ目を再び補強がてら地面から掬った雪で埋めると、反対側へと移動し同じ動作を繰り返した。
そして、二人の元へと戻ってくると満足気に見上げた。


「よし、完成!」

「かなり雪だるまらしくなったね」

「だよな!」


思わず歓喜の表情と声で視線を交わす二人の傍らで、アッシュだけが不満そうな色を見せていた。


「…でかいからそれなりに見えるが、形が歪だな」


歓声の中、ぽつりと落とされた呟き。
その呟きを拾った瞬間、アニスとルークはぴたりと動きを止めた。
そして、一瞬後に同時に振り向くと猛烈な勢いで噛みついた。


「お前はっ、俺とアニスの苦労を知らないだろ!?この大きさの雪玉を作るまで本っっ当ーに、大変だったんだからなっ!」

「ルークの言う通りだよっ!すぐに崩れないように水を含ませたりしながらさ!この大きさまで育てて、そのうえ雪玉を乗せても崩れずに維持してるだけでもすごいと思ってよね!」

「…そ…そうか」

「分かればいいのよ」

「まったくだ」


両側から迫られたその勢いにたじろいだのか若干引き気味に一歩後退したアッシュに、憤慨極まりない!とでも言いたげに腰に手を当てアニスは踏ん反り返った。
ルークも、最初はアニスと同調してアッシュへと詰め寄っていたが、ふと雪だるまへと視線を移したかと思うと何やら首を傾げだした。


「んー?何か物足りない?」


一人うんうん唸っているルークに気付いたアニスとアッシュもまた、雪だるまへと視線を向けた。


「…目が必要だろ」


数秒後、ぽつりと呟かれた言葉にルークが声をあげた。


「あぁ!……目?」


一度は納得したが何かが引っ掛かったのか、もう一度、目?と呟くとまた悩みだすルークにアニスもまた口元に指先を当てると首を捻った。


「目かぁ…、普通は木の実とか石…だよね」

「石?…また雪掘って探すのか?」


後ろの雪原を見渡してからの当然の疑問に、先程の枝探しを思い出してかアニスが露骨に表情を歪めた。


「…えー、また雪掘るの?枝探しよりは楽だと思うけど、また雪を掘るくらいなら木の実を探すほうがいいなぁ」

「でも、この辺に実が成ってる木なんてあったか?…要は丸ければいいんだろ?これじゃダメなのか?」


丸いもの、で何かを思いついたのかルークがポケットを探りだした。
それを黙って見守っていたアッシュとアニスだったが、懐から取り出されたそれに目を見開いた。


「ちょっとルーク、まさか丸いものってグミのこと!?」

「馬鹿か!貴重な回復薬をこんなくだらないことに使って捨てるやつがどこにいる!」


両側からの思いがけない反発にびくりと肩を跳ねさせ怯んだルークは、すぐにグミを取り出した手を引っ込めた。


「え、いや…雪だるまに使うんだから、捨てた事にはならないだろ?」

「同じことだ!目的外の用途に使うならな!」

「ルーク…それはさすがに私も勿体ないと思うわ」


アッシュはともかくアニスからも同意を得られなかったルークは、若干不満そうにしつつも肩を落とした。


「大きさとしてはちょうどいいと思ったんだけどなぁ」

「いやいや、大きさ的にも小さいから絶対雪に埋もれるって」


それでも未練がましく指先でグミを弄っているのか、懐に手を入れたまま呟くルークにアニスが半眼で突っ込みを入れる。
その様子を見ていたアッシュがおもむろに自らの懐を探り出した。


「…仕方ない。これを使え」


そう言って何かを掴んだ拳をルークへと差し出した。
差し出されたルークは素直に受け取るべきかどうか迷ったのか、アッシュの顔と手とで視線をしばらくの間往復させていたが、無言の圧力に促され恐る恐る手のひらを差し出した。
真上にきた拳が開き、ぽとりと何かが手のひらに落ちる。
落とされた物体を指で摘んだルークは、再びその物体とアッシュとを交互に見た。


「…えーと?」

「非常食の木の実「んなものもらえねぇよ!?」」


思わぬ言葉に盛大に突っ込んだ。
次いで必死に手と首を振って、いらない!と全身でアピールし摘んだものを突き出してくるルークに、アッシュはあからさまにため息をついた。


「話は最後まで聞け。非常食の木の実を食べた後の殻だ」

「食べた後の殻…、それならいいか」


振っていた手と首を止め改めて指先の物体を確認すれば、確かに綺麗に二つに割られた殻のように見える。
そして、一つ頷くとその殻をアニスへと差し出した。
ルークの身長では雪だるまの顔に当たる部分にまで手が届かないからだ。
肩を竦めながら受け取ったアニスが背中のトクナガを地面に下ろす。
そして巨大化したトクナガの背中へと飛び乗った。








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