その他
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※ほのぼの。
※多分ED後。
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エントランスホールを少女に手を引かれた少年が足早に通り過ぎる。
「アスベル、早く!」
「分かった、分かったから」
はしゃぐように手を取り先へ先へと急かす少女にアスベルは苦笑したまま足早についていく。
そして、辿り着いた先の扉を少女が目を輝かせながら自慢気に開け放った。
「見てアスベル、雪」
「え?……あ、本当だ。珍しいな」
触れた外気の冷たさに躊躇したのも一瞬
扉から数歩出た先で一度立ち止まり振り向いた少女が指差す先。
曇天の空からちらちらと舞落ちる白い結晶の塊。
思わず立ち止まり空を見上げた。
「…どうりで寒いはずだ」
言葉と一緒に吐き出された息の白さに今更ながら寒さを感じたアスベルは、自らの体を抱き寄せるようにして身震いをした。
ふわふわと舞い落ちる雪は何かの粉を振りかけたかのようにして目の前の景色へと降り注ぎ、色を塗していく。
鼻先を掠めた白を、つい目で追っていると握りしめられた手がぴくりと動いた。
「……あ」
「ん?」
何かを見つけたのか少女が先程と同じように何処かへと指先を向ける。
「アスベル、ヒューバート」
「え?…本当だ。ヒューバート!」
少女の指差す方向へと視線を移動すれば、白と灰色の単調になりつつある色彩の中にいつのまにか雑ざっていた目立つ青。
その見慣れた色に嬉しくなったアスベルは思わず身を乗り出すと手を振った。
その声に気付いたのか、少し離れた距離にいた少年もまた、手を振る2人の姿を視認したのか足早に近づいてくる。
「こんな寒い日に何をやってるんですか?」
玄関前の花壇まで来た少年に改めて手を上げる事で軽く挨拶を交わすと、呆れたように尋ねてきた少年の疑問にアスベルが上を指差すことで答えを示した。
「ソフィに連れ出されたんだよ」
「だって雪が降ってるから」
そう言って見つめてくるソフィに2人は苦笑した。
「はしゃぐ気持ちは分かりますが、そんな軽装で外にいては風邪を引きますよ2人とも」
「それもそうだな。さぁ、屋敷に戻ろう。ソフィ、もしまだ外にいたいのなら暖かい服装を用意してからにしよう。ヒューバートもお疲れ様」
「いえ。任務ではなく休暇で来ましたので」
屋根の下に入り上着の肩についた雪を払いながらのヒューバートの言葉にアスベルは破顔した。
「…そっか。だったら改めて、おかえりヒューバート」
「おかえりヒューバート」
「…ただいま。兄さん、ソフィ」
照れたように面映ゆい笑みを浮かべるヒューバートに、アスベルとソフィもまた笑顔を返した。
「それにしても珍しいですね。この時期にラントでこんな大雪になるなんて」
室内へと入り腰を落ち着けた所でふと外を見れば、先程の穏やかな天気からは一変し外は吹雪模様。
3人が屋敷へ入ってからまだ数分しか経っていない間の急変した天候に驚きと安堵からヒューバートがそう呟けば、同じように視線を外へと向けていたアスベルが同意するように頷いた。
「数日前から寒かったけど、まさかこんなに降るとは俺も思ってなかったよ」
まるでザヴェートのような天気に、多分一時的なものだろうがもしかしたら少し積もるかもしれないな。とアスベルが呟いた所で控えめに扉が開かれた。
二人が注目する中、少し間を置き顔を出したソフィが何やらいくつかの食器を持ってゆっくりと入ってくる。
そしてそのままヒューバートの座る側まで来ると足を止めた。
手に持っていたものを一旦テーブルに置くとそこから一つのマグカップを選ぶ。
「はい。ヒューバート」
「ありがとうございます」
ソフィから差し出されたそれを受け取る。
温かいマグカップとそこから漂う甘い匂いにヒューバートは一瞬不思議そうに水面を見つめた。
振動に揺れる焦げ茶色の液体。
「…ココアですか?」
「うん。甘いの平気?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
自然と閉じていた目蓋をそのままに一口啜る。
舌に感じる予想通りの味覚。
口に含んだことでチョコの香りが更に強くなった気がして、思わずほっと吐息が漏れた。
「ソフィの最近のお気に入りなんだ。そのせいで、俺なんか毎日のようにココアばかり飲まされているよ」
カップを傾けるヒューバートを見ながら何処かげんなりとした表情で肩を竦めるアスベルにソフィは首を傾げた。
「甘くて美味しいよ?」
「僕も嫌いではありません。確かに冬になると飲みたくなりますね。でも、それを毎日だなんて…そんなに買ったんですか?」
まるで非難するかのようにひそめられた眉に、勘違いされていると悟ったアスベルが慌てて首を振った。
「いや、この前パスカルがラントに遊びに来た時、お土産でたくさんチョコとココアを貰ったんだよ。な?ソフィ」
「うん。だからヒューバートもたくさん飲んでね」
そう言って何処か期待するような眼差しを向けてくるソフィにヒューバートは言葉に詰まった。
「さすがにたくさんは無理ですが…」
まぁ、滞在する数日の間くらいなら毎日飲んでも…と頷くヒューバートにソフィは嬉しそう微笑した。
「アスベルも遠慮しないでね」
今度はアスベルへと矛先を向けるソフィに、アスベルは視線を逸らしつつ後頭部をかいた。
「俺は、ほどほどでいいかな。もう10日間ずっと飲んでるし」
譲歩しつつもぽつりと呟かれた愚痴にヒューバートは驚きからか目を見開いた。
「…そんなにですか」
「あぁ。…ソフィより先に飽きそうだ」
「それは…ありえますね。ソフィも、毎日飲んでると飽きますよ」
口元を抑えているアスベルを横目に助言したヒューバートの言葉の意味が分からなかったのか、ソフィは不思議そうに首を傾げた。
「私は毎日カニタマでも飽きないよ?」
「はは。ソフィはカニタマ大好きだもんな」
「うん、ココアも好き」
テーブルの上に置いたまま忘れ去られていたマグカップをアスベルへと手渡す。
「でも、カニタマとココアは違うかもしれませんよ」
何やら苦い表情で受け取ったマグカップへと視線を落としている兄を見ながら、ヒューバートもまた少し冷めてしまったココアへと視線を落とす。
「どう違うの?」
聞かれるとは思っていたが、実際に聞かれるとどう答えるのが最善なのか。と言葉に迷っている弟の代わりにアスベルが口を開いた。
「カニタマはソフィの大好物のものだけど、ココアは最近好きになったばかりだろ?もしかしたら一時的に好物になっているだけなのかもしれない」
「?ずっと好きじゃなきゃ飽きるの?」
「うーん…、ずっと好きじゃなくなった時点で飽きてるのかもな」
そう言って肩を竦めるアスベルにソフィは自らの手の中にあるココアへと視線を落とした。
「ソフィはずっとココアを好きでいたいだろ?」
「…うん」
「だったら、飽きないようにほどほどに飲んで長い間好きでいられるようにしないとな」
「…そうだね。うん、分かった」
「何でもほどほどが一番ですよ」
納得はしたみたいだがそれでも何処か残念そうにココアを啜るソフィの頭を、何処かほっとした表情で撫でるアスベルの姿にヒューバートもまた安堵の吐息を吐いた。
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