その他

□冬道
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※学パロ?

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「やっぱ冬はあんまんだよな」

「肉まんも美味しいよ」

「そういう意味じゃねぇよ」

「わかってるよ」

「…おい」


仄かに湯気の立つそれを片手にだらだらと道を歩く。
寒さからか足早に追い抜く人々に混ざり、時折吹き付ける風の冷たさに肩を竦めながら連れ立って歩く隣の彼の頬も、同じようにほんのりと赤い。
湯気の割にさほど熱さを感じない手の中のものを、それでも指先に感じる仄かな温かさを噛み締めるようにゆっくりと咀嚼する。
口の中に広がる肉汁に口元が緩んだ。


「何で冬になると食いたくなるんだろな」

「寒いと暖かいものを食べなくなるのは、心理というか本能的なものじゃないか?」

「ああ、暖かいこたつで冷たいアイスを食いたくなる心理な」

「それは違う」


外気が冷たいせいか袋を開けた時にはあんなに温かかったそれは時間の経過ですっかり熱を発散してしまったらしく、もはや暖をとるためのものではなく空腹を満たすためだけのものになっていた。
辛うじて温かい真ん中の芯を求めるように大きく一口噛る。


「チョコまんも買えば良かったなぁ」

「僕はチーズピザまんが食べたい」


すっかり冷えてしまった最後の一口を口に放り込む。
途端に感じる食べたあとの指先の冷たさ。
名残惜しげに手を擦り合わせた。
かじかむ指先に数回息を吹きかける。
何だか人恋しいというか物理的にも心理的にも寒い気がして、気休め程度の暖取りをやめるとコートのポケットへと手を伸ばしかけたが


「ほら」


隣から手が差し出された。
思わず、差し出された彼の手と顔を2往復。
もう一度、顔へ。
何故か前を向いていて合わない視線は照れ臭さからなのか、こちらへ意識を向けていないせいなのか。
こうしている間にも末端から奪われていく熱。
もしかしたら、彼も同じ寒さを感じていたのかもしれないと思うと何やらくすぐったいものを感じて素直に手をとったが


「…って、つめたっ!?」

「お前の手、温いなぁ」


反射的に一瞬引きかけた手を、まるで逃がさないと言わんばかりにがっしりと掴まれた。
じわりと伝わる冷たさに自然と体も逃げる。


「な!?まさか始めからそれが狙いでっ!?」

「何のことだか」

「こ…っ、この卑怯者!」

「…待て待て。そこまで非難されることか?」


困惑の表情を浮かべてはいるが握られた手は解放されない。
しばらく無駄に抵抗してみる。
腕力では負けていないはずなのに一向に外れない手。
寒さにかじかむ手が思いの外、力を奪っているのかもしれない。
思わず目が据わった。


「…君がそんな男だったとは思わなかった。見損なったよ」

「いやいや、ちょっとした出来心からの可愛い悪戯で何でそこまで言われなきゃならねぇ訳!?」

「それは日頃の行いですよユーリさん」

「納得いかねぇんですけどフレンさん」


それでも外れない手。
仕方がないので足掻くことを諦めると手の力を抜いた。
こうなったら、冷たさから逃げるのではなく彼の手ごと自らの手も暖めたほうが早いかもしれない。
というか、自分の手の温もりなどとっくの昔に彼に奪われているので、今はもう彼の手から冷たさを感じることはなかった。
その代わり、外気に晒されたままのむき出しの手の甲が痛い。
やはり以前から購入を見当していた手袋を買うべきか。


「お、あそこのコンビニ寄ろうぜフレン」


くいっと引かれる手。
惰性のままに足の向きを修正する。


「あんまんにするかな」

「だったら僕もあんまんにしようかな」

「でもチーズピザまんも棄てがたい」

「むしろ唐揚げ食べたい」

「いや、そこは話の流れ的にカレーまんにしとけよ」

「意味が分からない。角煮まんならいいよ」

「結局、肉じゃねぇか」


吹きつける風の冷たさを遮るようにマフラーへと口元を埋める。
思わずお互いに力がこもった手。


「どっちでもいいけど、とりあえずコンビニに入ろうぜ」


半歩前を歩く彼が扉を開ける。
いらっしゃいませー。と言う店員の間延びした声を聞きながら暖かい空間へと足を踏み入れた。
やっぱり抹茶クリームまんにしよう。








end








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