その他

□2012.W・D記念
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※時期外れすぎる話。
※ある意味、V.D記念の続き。

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……おいおい。俺が何をしたっていうんだ?
何で死亡フラグが立ってやがる。

目の前に広がる何とも煌びやかな光景。
…にも関わらず、俺は引きつる笑みを必死に堪えていた。
嫌な予感がする。むしろ嫌な予感しかしない。
だって
こんな


「さぁユーリ、遠慮しないで食べてくれ」


目の前には見た目はご馳走以外の何物でもないし、そうとしか見えないデザートの山。
しかしその実態は、博打に似た危険物だらけだという非常に残念な現実が広がっているのを俺は知っている。
むしろ、今日という日を考えると考える余地もなく全て危険物だ。
断言してもいい。
何故なら
作ったのがフレンだからだ。
そうでなければ俺は迷うことなく食べていたかもしれない。
それぐらいに目の前に広がるデザートの数々は大変魅力的だった。
とても美味しそうだった。
それがどうだ
“フレンが作った”という前提と一文が加わるだけで何故か色褪せる不思議。
むしろ悪寒すら感じる。
ものすごく回避したい。


「どうしたんだ?」

「どうしたって…」


お前こそどうした。
今までこんなことしたことなかっただろ。

目で訴えてみるが、彼はにこにこ笑うばかりで残念ながら以心伝心は期待出来そうになかった。
いらないことはすぐに察する癖に察して欲しい時には見当違いな思考回路へと繋げるから困る。
大方、どれから手を付けようか迷っている。とか思っているんだろうけど残念ながら同じ“迷っている”でも理由は真逆だ。
そういう意味では以心伝心出来ているのかもしれない。
そもそも何で俺は今ここにいるのか。
今日は世間ではホワイトデーと認識されている日だ。
俺は先月のバレンタインデー同様ホワイトデーにかこつけて、今日もまた家に籠もり好きなデザートを作りまくっては食べまくる至福の時間を過ごすつもりだった。
それが何故かフレンの部屋にいる。

経緯を簡潔に説明すると、まず朝一番、フレンが俺の部屋を訪れた。
何でも、どうしても自らの部屋へと招きたいのだそうだ。
いつもなら用事がない限りその誘いに乗るし、むしろ暇だからと押し掛けていたりするのだが、今日は先にも述べた通りホワイトデー。
そんな訳で俺は、デザートと親友とを天秤にかけ迷っていた。
…が、彼もまた今日は強引というか(いつも強引だけど)妙に食い下がるものだから、もしかしたらここでは話せない何か大事な話でもあるのかと思い名残惜しいが私的ホワイトデーは後日仕切りなおし…という事にしてフレンの部屋へと招かれてみれば、これである。
とんだ落とし穴だ。
むしろ罠だろ。


「毎年バレンタインに色々とご馳走になっているし貰ってばかりだからね。僕からも何かお返しがしたいと思ったんだ」


いやいやお構いなく。とか、のーせんきゅう。とか言えればどんなに良かったか。
フレンの嬉しそうな笑顔に喉元が引きつる。
失敗した。
果たしてこの場合の“失敗”とは、こうしてのこのこと何の疑いもなく部屋へと来てしまった事か。はたまた、毎年特に何も考えずに彼を部屋へと招いていた事なのか。俺にもよく分からない。
しかし、自らの行いによる所謂自業自得な結果だということだけはわかっていた。


「旅の間に僕の料理の腕もあがったしレパートリーも増えたからね」


そうだな。極端な方向にな。

脳裏に浮かぶ苦い思い出の数々にそっと目を逸らしてしまうのも仕方がないだろう。
だって色んな意味で直視できない。
しかも椅子に座る俺の背後にいつのまにかフレンが陣取っていた。
これはあれか。
敵前逃亡を許さないというそういう意味か。
むしろ、気持ち的にはサプライズエンカウントで敵に囲まれた気分なんだが。
……いや。
いい加減、現実から目を逸らすのはやめろユーリ。
いくら瞬きを繰り返したところで目の前の光景は消えないんだユーリ。
…とか何とか、無理矢理励ましてみる。
全く効果はないけど。
…回避出来ないのなら少し前向きに考えてみようではないか。
被害を最小限ですませる努力をするために。
戦闘も先手必勝だ。
凹られる前に凹る。
ヤられる前にヤる。
基本中の基本である。
幸いフレンの料理は全て不味い訳ではない。
結果が旨いか不味いかの両極端なのであって、美味しいものはとても美味しいのだ。
要は、その旨いものにどれだけ多く当たるか…である。
目の前の料理は果たしてフルコースかポイズンか。
咥内にじわりと溜まる唾を飲み込んだ。
大丈夫だユーリ。パナシーアボトルはお前の懐にあるじゃないか。
むしろこれは、リキュールボトルかカクテルボトルの出番か?
冷や汗を拭い震える手で胸元を確認する。
早打つ心臓。
視線を忙しなくテーブルの上で動かす。
こうなったら俺がまずやることは一つだ。


「…なぁフレン。一番お勧めのとそうでないのを教えてくれないか?」


危険物の選定に決まってるだろ!


「?…そうだな。お勧めはこれかな」


はい、後回し決定。

俺は、さりげなくその皿を横へずらした。
あたかもズレている位置を直すかの如く。
そんな俺の言動にフレンは首を傾げた。


「お薦めはわかるけど、“そうでないの”ってどういう意味だ?」

「いや、ほら、あの、どうせ全部食べるならお前がお勧めのやつは最後の楽しみに取っておきたいだろ?…で、まず始めに自信のないやつから手をつけようかと思ってな。俺が作ったことのあるやつなら物足りない所とかアドバイスしてやれるかもしれないだろ?」


ナイス言い訳。これなら自然とレシピ通りの料理を狙える。
回避不可能なら、せめて一発KOの前に美味しいのを食べてから逝きたい。
言っておくが決して誤変換ではない。
決して誤変換ではない。
大事な事なので二回言いました。


「…ユーリ、ありがとう。そうだな。ここにあるのは始めて作ったものなんだ。一応、本で確認しながら作ったけど、君に感想をもらいたい」


よし。これは安全と


「任せとけ」


ようやくフォークを手に取った。
見た目は本当に美味しそうなパウンドケーキ。
しかし親友の作る料理は、尽く見事に見た目を味が裏切る。
しかし、ある意味彼のお墨付きをもらったこれは外れの可能性は限りなく低いだろう。
試しに一口食べてみる。


「……うん。美味い」

「本当?」

「あぁ。初めて作ったにしては上手く出来てると思うぜ。生地の膨らみも良いしな」

「良かった。君にそう言ってもらえると、自信が出てくるよ」


舌に乗る甘みにすぐ二口目を口に放り込む。
生地に見え隠れしていた塊は、どうやら普通にナッツやベリーだったらしい。
微かに紅茶の香りもする。
最低限の余計なアレンジの加えられていない彼の料理はやはり文句なく美味しい。
何で彼は余計なアレンジを加えたがるのだろう。レシピ通りに作ればこんなに美味いものが作れるというのに。…とは思っていても口には出さない。
色んな意味で無意味だからだ。
さて。次の選定をしようか。
目の前にあるのはやはり美味しそうなデザートの山。
しかし、この中の何割かは一発で昇天させられる代物である。
冗談でなく。
こうなったら、残りは運試しだろう。
俺はこっそりため息を漏らした。
多分、彼の気合いのいれようから見て8割はアレンジ作品と見て間違いない。
俺は再度、懐のパナシーアボトルをまるでお守りかのように触って確認した。
唾液を飲み込む音が妙に大きく聞こえる。
頑張れ俺。
勇気を出せ俺。
傷は浅い内に対処すれば問題はない。
食べて異変を感じたら、意識を失う前にすぐにパナシーアボトル。
頭の中でシミュレーションする。
…よし!


「今日は思い切って君を誘って良かったよ。遠慮なく食べてくれ」

「…あー、ありがとな」


にこにこ笑っているであろうフレンは相変わらず俺の背後に陣取ったままだ。
常に妙な威圧感を背中に感じたまま、俺は色んな意味で緊張のためか震えるフォークを目の前の菓子へと突き刺した。

結果は二つに一つ。








end








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