その他

□路のない先触れ
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※ED前。

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鳥が囀り緑豊かな木々が揺れる音色が心地良い空間。
青年は家屋の脇に設置されているベンチに一人腰掛けていた。
ぼんやりと空を見上げたまま先程から微動だにしない姿は周りから見れば少し不審に思われたかもしれないが、幸い此処には彼しか存在しない。
木漏れ日が射し込む長閑な空間。
自然と体から力が抜けた。

考える事…否、考えなければいけない事は山程あった。
流れる雲を眺めながらクラトスはぼんやりと思考する。
様々な事が頭を過っては消していく意味のない作業。
しかし、そのなかでも幾度もなく頭に浮かぶことは一つだけ。
何度考えても最終的には同じ結論にたどり着く。
つまりはそういうことだ。
けれども、諦めの悪い頭は考える度に否定を繰り返し選択肢を増やそうとしては懲りずに断念し失望感に苛われる。
それでも別の選択肢があるのならそちらを選びたい。
甘い逃げにも似た愚考が過り選択肢を増やしては自らで消していく、何とも不毛なやりとりと諦めの悪さ。
弱い己の心に呆れ果てる日々。
明らかに時間の無駄だった。
自らもその選択肢が最善だと分かっている。
しかし考えるのをやめたくない。
矛盾した気持ちが今日も不毛なやりとりを繰り返す。
多分、今日出る結論も昨日と変わらないだろう。
そして明日また新たな選択肢を増やすに違いない。

ふと、近づいてくる気配に視線をずらした。
動く影が視界に入る。
首を曲げれば、少し離れた距離に何やら思い詰めた表情の息子がいた。
黙って見守れば真っ直ぐにクラトスが座るベンチへと足を進めてくる。
そして、一言も発しないまま目の前で立ち止まった少年に青年は困惑の色を隠さなかった。
お互いに声を発さずに見つめ合うこと数秒。
少年がおもむろに、座るクラトスの膝に乗り上がってきた。
驚愕と困惑から硬直するクラトスの首に腕を回して抱きつく少年。


「どうした?」

「…俺…重いか?」


答えになっていない返答。
重くはなかったのでクラトスがあやすように背中を叩けば、子供扱いするなっ!と癇癪を起こした子供のように怒られた。
しかし首に巻き付いた腕は離れない。
クラトスは更に困惑した。
どうすればいいのか分からない。
考えても答えが見つからないのもある。
そもそも経験がないから引き出しにもない。
この年頃の子は難しい。とクラトスは途方に暮れた。
頭を撫でれば怒られて、けれども何かを訴えるように抱きつかれる。
こういう時に、空白の時間を育てられなかったことが悔やまれた。
あの時間を埋められていれば、もう少し息子の気持ちを察せられたのかもしれない。
詮ないことを考える。
困り果てたクラトスが、再度頭を撫でれば


「嫌だって言った!」


やはり怒られた。
今度は素直に腕を下ろしかけるが、そこでようやくクラトスは気付いた。
何か言動が幼い?
もう一度頭を撫でれば文句の言葉は飛んで来ない。
試しに止めてみれば、肩がぴくりと動き催促しているのかムズがるような仕草。
思わずクラトスの口元に笑みが刻まれた。
何だか悩んでいた事が馬鹿馬鹿しくなって笑い声も洩れ始める。
その笑い声が聞こえたのか首に抱きつく腕に力がこめられた。


「…ロイド、少し腕の力を弛めなさい」


苦笑混じりに囁くが、緩まない腕。
クラトスは息子を抱き締めたまま、凪いだ気持ちで空を仰いだ。

流れる雲の先。
光明は何処にか。







end








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