その他

□しっぽの攻防
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※燐雪っぽい描写もあるけど雪燐前提です。
※『二対のしっぽ』の続きっぽい尻尾話。
双子がじゃれてます。

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そろりと焦らすように下から上へ撫であげれば、呼応するかのように眼下の背中がぴくりと動いた。
小さく上がった吐息混じりの声は、すぐに何事もなかったかのようにまた静かになり、それを視線で確認すると今度は大胆に握力を少し強め何度か繰り返し擦る。
シーツに顔を押し付け声を耐えているせいか、震えながらもゆっくりと吐かれる息に、こちらもわざと強弱をつけて揺らすように指を動かせば、耐えきれなかったのかとうとう声が漏れだした。


「…っ、あ…っ、兄さ…、やだぁ!」


尻に敷いた太股が揺すり落とすような動きをし始めたので、挟んだ両足に力を入れて抑えつけた。


「ここが気持ちいいのか?雪男」

「…ん…ぅ、や…だって、言ってる!」

「素直じゃねーなぁ」

「っやぁ…っ、あっあ…っ!」


指の動きは依然そのままに震える体を見下ろしながら苦笑すれば、掴んでいる枕を破かんばかりにきつく握り締めている指が目に入る。
項を伝う汗と浮かぶ肩胛骨に見惚れてふと動きを止めた瞬間


「…いいかげん…っ」

「ん?」

「どけろって言ってんだろ!!」

「うわっ!?」


雪男が俯せていた上半身を一気に腕の力で起こすのと同時に尻を持ち上げたせいで、ただ太股に乗り上げていただけだった俺は何の抵抗もなくそのまま雪男の足元へころりと仰向けに転がった。
次いで、俺の下敷きになりかけた足を抜いたその勢いで体を反転させた雪男の足が、鼻先ぎりぎりを過ぎていく。
慌てて体勢を整えるべく身を起こそうと肘を立てたところで、追撃するように雪男の振られた腕も飛んできた。
反射的に再び後頭部をシーツに戻せば、目の前を掠めるように過る腕の先。
何か違和感を感じてその残像を視線で追えば、手の先端に握られていたのは見覚えのありすぎる鉄の塊。
つまり、雪男愛用の銃。


「…っあぶな…っ!」


危うく銃で殴られそうになり俺は口元を引きつらせた。
……えー。兄ちゃん、銃はそういう使いかたをするものじゃねぇと思うんだけどな。
かといって、本来の使い方でもって発砲されても困るわけだが。
再び上半身を起こしかけたところで、頭上に影が差したことに気付きゆっくりと視線を戻せば
いつのまにか、さっきとは逆に仰向けに転がる俺の足を跨いで膝だちになった雪男に見下ろされていた。
……逆光の眼鏡がコワイです、弟よ。


「兄さん…覚悟はできているんだろうな?」

「っ!ま…まてまて雪男!」


手にした銃を迷うことなく額につきつけられた俺は、ごりごりと押しつけられるその冷たい感触に冷や汗を流した。
洒落にならない。
あたまはやばい。
あ。でも悪魔だから再生するのかな?
いやいや。
悪魔だって絶対に死なないって訳じゃないんだし、さすがに頭の中身ぶちまけられたら死ぬんじゃないかと兄ちゃんは思います!
……死ぬよな?
てか、死ななくてもものすごく痛そうだからいやです!


「おおお落ち着け雪男!り、理由があるんだって!」

「……なに」

「あ…のさ、最近気付いたんだけど。お前と俺のって一緒のようで一緒じゃないだろ?」

「……は?」

「えーと…尻尾の感度?とか、何かあきらかに俺と違うっつーか。お前のほうが、にぶい?ような気がして、確かめたかったんだよ!」

「…なんだ。そんなこと」


納得したのか呆れたのか、ようやく銃を下ろした雪男が眼鏡のフレームを指先で調整しながらため息をついた。


「あのね、兄さん。確かに僕の尻尾は兄さんのと比べれば感度は鈍いのかもしれない。でもそれは、僕が兄さんよりあらゆる面で接触や痛覚に関して忍耐強いからそう感じるだけなのかもしれないし、表面上そう見えているだけなのかもしれない。……そうだな。お互いの感覚を共有できれば一番手っ取り早いんだけど、そんな事も出来ないから結局は個人差って事になるんじゃないかな」

「…んん?結局、雪男は俺より我慢強いってことか?」

「……簡単に言えばそうなるね。言葉にするのは難しいけど…僕は尻尾を触られるとむずむずして気持ち悪いかな」


尻尾に触られた時の感触を思い出してか、嫌そうに顔を歪める雪男に俺は首を傾げた。
むずむず、か。俺は何だろ。ぞわぞわ?
言葉ってむずかしい。


「さて。疑問も解決したところで、今度は僕の要件を済ませてもいいかな。兄さん」

「ん?なんだ?」

「さっきのお返しに兄さんの尻尾を嫌というほど触りまくっていじり倒してあげるから、さっさと僕に尻を出せ」

「何か別の意味も含んでねぇ!?」


穏やかに会話していたから怒りがおさまったと思っていた俺の考えは、少し甘かったようだ。
雪男が予想以上に怒ってた。
その笑顔が怖くて思わず逃げ腰になった俺は逃走すべく自然と足がベッドの外へと向かうけれど、ふと止めた。
ここは踏張る時に違いない、と思ったからだ。
志摩も、たまには兄らしいところを見せるべきだと言ってたし!
気合いを入れて上目遣いで睨み付ければ、なぜか雪男が一瞬虚を疲れたように瞬きをした。
それをチャンスだと思った俺は、すかさず雪男に体ごと体当たりをするように上体を起こす。
油断していたのか、珍しく受け身すらとらずに再び頭を枕に沈めた雪男を見下ろしながら俺は、驚きからか傍らにぴんとたっていた雪男の尻尾を掴んだ。


「っんぅあ!?ちょっ、卑怯だ!」

「こんな時じゃないとお前触らせてくれねぇだろうが!俺のは許可なく握りしめるくせに!俺だって雪男の尻尾、いっぱい触りたい!」

「なっ!?触りたいってっ」


頬を膨らましつつ尻尾をさわさわとやや乱暴に撫でれば、眉を潜めつつも雪男は再び大人しくなった。
それをチャンスと思い、思う存分触るべく再び太股へと座る。
自分のと同じはずなのに、何故か雪男の尻尾は手触りが良くて気持ちがいい。
同じ石鹸を使っているのに肌触りが違う気がする。
あ。ふわふわ。


「や…っぁ…、にゃぁっ!?」

「……にゃぁ?」


雪男が、にゃぁ…だと?
顔を真っ赤に染めた雪男が視線を逸らして震えている。
まるでプルプルしている猫みたいに見えて思わず目眩を感じた。
何この可愛い弟。
これが、しえみが言ってた萌えるってやつか!?


「…ぁ…っう…」


俺が悶えている間に別の意味で悶えていた雪男が、唇を噛みしめ声を押し殺した。
怒りにか羞恥にか、もしくはどちらもあるのか顔を背けたままぶるぶる震えている体に、今更ながらやりすぎたかと罪悪感が芽生え始めた。
でも、耐えるように震える雪男の姿って
なんか
えろくね?


「…くそっ!」

「っ!?」


体が、振り払われた腕でもって吹き飛ばされ壁に頭ごとぶつかる。
痛みに頭を抱えていると、頭上に影。
気付いたらまた形勢逆転していた。
何かデジャヴ。


「ゆ…ゆき…?」

「…僕、忠告したよね」

「お、おお落ち着け雪男!兄ちゃんが悪か「そうだね。例え兄さんが明日、腰痛で起き上がれなくて人には言えないあんな所やこんな所が腫れたり過敏になったりして学校を休むことになろうが僕は全くこれっっぽっちも悪くないし自業自得だよね?」」

「ええぇ!?お前、なにいってんだかわかんな…いやいやまてまてっ!何で下着に手をいれて…っ、あっ!」


正直、笑顔で服を剥く雪男が悪魔に見えました。

……いや。もう弟は悪魔だったけど。








end







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