その他

□花冠
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※ジュ+エリ+アルがほのぼのしてる話。
※中盤くらい?

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「…えーと、買い忘れは…ないよね…?」


人でごった返している道を小さなメモを片手に歩く。
少し余所見しただけですぐに接触しかねない程に雑然とした人混みの中を、時折手元へと視線を落としつつも人と人との隙間を縫うように歩く少年の足取りは淀み無い。
その後ろから近づく小さな影。


「ジュードくーん!」

「…え?」


後ろから聞こえてきた軽い駆け足と気配に気付いたジュードが驚いて立ち止まるが、振り向く間もなくそれは突然襲い掛かってきた。
相手の姿を捕捉する筈だった視界は何故か真っ暗。
もう一度、え?と呟いたジュードは困惑から立ち尽くした。
そして、襲撃者から少し遅れて追い討ちをかけるように腰へとぶつかってきた柔らかい何か。
ジュードは更に困惑した。
とりあえず状況を把握するのが先だと思ったジュードは、まず視界の障害物を取り除くべく前方へと手を伸ばす。
探る必要もなく一回で掴めた柔らか素材の胴体部分を両手で掴み何回か引っ張れば、すぽんと微妙な音を立ててそれは引き剥がされた。
開けた視界の解放感に息をつく。
次いで、手で捕えたままの人形…ティポを離せば、急にスイッチを入れたかのような反動で飛び跳ねた。


「会いたかったよー!ジュードくぅーん!」


頭の周りをぐるぐると回りながら叫ぶティポに、買い出しに行っただけで?と首を傾げるが、まるでティポだけではなく自分にも構ってくれと言いたげに回された腕で腰を絞められ、ジュードはようやく背後の下方へと視線を向けた。
そういえば、エリーゼは会ってから一言も声を発していない事に今更ながら気付く。
代わりになのか、ティポがジュードの名前を連呼しながらぐるぐると回り続けているが。
もしかしたら、エリーゼに何かあったのだろうか?と少し不安になったジュードは顔を伏せている少女に声をかけた。


「エリーゼ、どうしたの?」


答えるのが嫌なのかそれの動作が答えなのか、まるで甘えるようにぐりぐりと額を背中に押しつけてくる少女。
ティポもまた、ジュードー!と肩に擦り寄ってくる。
本当にどうしたのか。
顎に手を当てしばらく考えてみるが、ジュードにはわからなかった。
しかしティポの様子を見る限りではエリーゼに何かがあったというような様子でもなさそうだったので、迎えに来てくれたのかな?と首を傾げたジュードは、買い物袋を腕にかけ直し空いた手を後方へと伸ばした。
髪に触れた手の感触に気付いたエリーゼがぴくりと肩で反応する。
そのまま優しく撫でていると、もっと撫でろといいたげに更に頭を押しつけられた。
そのくすぐったさにジュードは笑いながら身を捩る。
ふと、周りにいる人々が遠巻きに二人を注目している視線に気付いた。
道の真ん中であれだけ騒いでいれば、歩く人々も興味を惹かれて見てくるのは当然のことだが。
まして、動く人形もいるのだから尚更。
露店の店員は勿論、通りすぎる人達からもすれ違いざまにちらちらと視線を向けられ、ジュードは誤魔化すような笑顔を周囲へと向けたあと困ったように後ろへと腰を捻った。


「…エリーゼ」


肩に手を置き、やんわりとだが離れるように促すがエリーゼからの返事はなく代わりにティポが、いやー!と返事をした。
嫌だと言われても、今の状態では歩く人々の邪魔になっているし、かといって移動しようにも動けない。
仕方がないので、提案を少し変えることにした。


「ここに立ってると皆の迷惑になるから、少し移動しようか?」


この際、脇道までとは贅沢は言わない。
今いる道の端に移動するまででいいから、一回離れてくれるかな?と頭を撫でるが、それでもいやいやと首を振られる。


「ひどいよ、ジュード!僕たち離れたくないのに無理矢理離すなんてー!」


まるで問答無用で引き裂かれるかのようなティポの悲痛な叫びに、ジュードはますます困って途方に暮れた。
相変わらず遠巻きながらも人の視線を感じる。
こんなに騒いでいるにも関わらず何も言ってこない所から考えるに、もしかしたら兄妹喧嘩だと思われているのかもしれない。
一度そう意識しだすと、何だか周りの視線が迷惑というよりは、我儘な妹に困っている面倒見のいい兄…な兄妹を微笑ましげに見守っている…そんな視線のような気がしてきたジュードは、諦めたようにため息を吐いた。


「…仕方がない。エリーゼ、ゆっくり移動するから転ばないように気を付けてね」


結局ジュードは、エリーゼを腰にしがみつかせたまま移動する事を選択した。
例え、一回離れる事で上手く脇道へと退けられたとしてもエリーゼとティポのこの様子ではすぐにまたジュードの腰へとくっつくだろうし、それだと単に場所を少し移動しただけで何の解決にもなっていない。
ティポの言葉からしか参考なる情報は得られていないが、どうやらエリーゼは迎えに来てくれたみたいなので、このまま立ち止まって無為に時間を消費するよりは少しでも宿へと歩いたほうが建設的じゃないか、とジュードは考えたからだ。
つまずきそうになったらすぐ対応出来るようにとエリーゼの背中に手を添えながら、ジュードは慎重に歩く。
まるで二人三脚でもしているかのようにゆっくりと進む足。
その遅速ぶりに、これでは宿につくまで何時間かかるのかな。と少し後悔しかけていると、頭上に何かが乗せられ頭が傾いた。


「どうした青少年。可愛い腰巾着なんかつけて」

「アルヴィン!?」


立ち止まり頭上を仰げば、ジュードの頭に腕を乗せつつも下方のエリーゼへと不思議そうな顔を向けているアルヴィンがいた。
ジュードも同じようにエリーゼの頭へと視線を下ろす。
先程から位置も状態も変わっていない。
アルヴィンが下方へと向けていた視線を持ち上げたことで目が合った。
お互い無言のまま、視線で説明を促されたジュードは苦笑するしかなかった。


「えーと。僕にもよくわからなくて…」

「…何かあったのか?」


訝しげに眉を寄せるアルヴィンに、ジュードはただ首を振った。
その仕草に少し考えるように空を見上げていたアルヴィンが次の瞬間、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべジュードの頭からエリーゼの頭へと手を移動させた。


「どうした?お姫様」

「アルヴィンには関係ないだろー」


ますますぎゅっと抱きつくエリーゼは相変わらず無言で、またしてもティポが返事をする。
エリーゼの気持ちを代弁しているティポの返事なのだからそれはつまりエリーゼの返事でもあるのだが。
やはり自分の口では喋らない少女に、さっきからこんな感じで…。とジュードが肩を竦めればアルヴィンの視線が今度はティポへと移った。






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