その他

□本音と建前と寂寥と
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※急にアルジュの体格差に萌えて書いたもの。
※甘々です。むしろ、目指しました。

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閑静な通りに建つ宿屋の一室。
時折耳に届く生活音を聞き流しながら部屋の隅に設置してあるソファーに座って寛いでいた俺は、控えめに回されたドアノブの音に気付き振り向いた。
案の定部屋へと入ってきた同室の少年が、扉を閉める為に向けている背中へと声をかける。

おかえり。ただいま。

それだけの挨拶。
しかし、少年の声は何だか覇気がない。
落ち込んでいるような、単にそう聞こえただけなのか。
小さな違和感程度では判断要素としては物足りない。
仕方なく黙ってその挙動を目で追っていたのだが、その視線に気付いたのか扉から室内へと振り向いたジュードが一度こちらへと視線を向けた。
しかし、俺が見ていた事に驚いたのか他に理由があったのか、目を見開いたかと思うとまるで逃げるように視線を逸らした。
疑惑が深まり眉間に皺が寄る。
そして、そのまま俺と距離を取るためにベッドへと足を向けると思いきや、何故かジュードはわざわざこちらへと歩み寄り、俺の目の前で立ち止まった。
宿屋に備品として設置してあるソファーは、広くはないが二人掛け出来ない程狭くもない。
テーブルを挟んで正面にも同じ大きさのソファーが鎮座している。
もちろんそちらは無人だし、荷物を置いている訳でもない。
にも関わらず、そちらへは目もくれず目の前に立ったということは最初から少年の目的は俺の座る場所にあるか、あるいは俺自身ということになる。
俺がいま陣取っている場所は、特別これといって陽当たりのいい場所でもないし風当たりのいい場所でもない。
座れる場所ならどこでも良かったから適当に腰掛けた、その程度の理由で此処にいる。
だからこそ、俺には少年がこの場所に拘る理由が思い当たらなかった。
以上のことから推察するに、少年の目的は俺自身にある可能性のほうが高い。
もしかして、覇気がなかった事に何か関係があるのだろうか?と考え始めた時、
立ったまま何やら逡巡していたジュードが、決心したように胸元で拳を握る仕草をした。


「あのね、アルヴィン。お願いがあるんだ」

「……俺に?」

「うん…」


躊躇うその様子から、何か言いづらい頼み事なのだろうか?と訝しむが、やはり全く見当が付かない。
多分、まだ全てのカードが出揃っていないのだろう。
黙って先を促すと、ジュードは仄かに頬を染めながら俯いてしまった。


「……その…断っても、いい、からね?」


視線を斜め下へと滑らせ、言葉にするならもじもじといった所作で両手を後ろで組んだあと、こちらの機嫌を伺うようにちらちらと上目遣いで見つめてくる様はまるっきり女の子の仕草である。
しかし目の前にいるのは青少年であり、つまりは男の子。
確認済みだから間違いない。
…はずなのに、
何故か目の前の少年がやっていても違和感を感じないから反応に困る。
そして、その時俺が思った事はといえば
『なにこの可愛い生き物』
だったりするから、目もあてられない。
色んな意味で生温い眼差しと笑みになってしまっても仕方ないだろう。
思考と同時に体も硬直していたのだが、少年のほうは恥ずかしさからか相変わらず頬を染めもじもじと身動ぎしながら視線を彷徨わせて返事を待っている。


「…俺が、おたくのお願いを断る訳ないだろ?…で?どうしたんだ?」


表面的には笑顔を浮かべていたと思うのだが、明らかに頬が引きつっている自覚はあったし目も据わっていただろうが、ジュードにとってはそんな不自然で胡散臭い笑顔でさえも安心出来る要素があったらしい。
これまた文字通り、ぱぁっと花咲いたような嬉しそうな笑顔を振りまいた。
あ。可愛い。なんて反射的に思ってしまった自分を殴りたい。
うっかり自己嫌悪なんかしている間に躊躇いがちに足を一歩前へと踏み込んできたジュードが、にこりと笑みを浮かべた。


「え、と。アルヴィンはそこに座ってて」

「?」


ある意味固まったままの俺に告げられたのは現状維持。
座っていろと言われたので俺は、体勢を直すように少し深く腰掛け直しただけでその場に留まった…ところまでは良かったのだが、
何故かジュードがそのまま太股に跨ってきた。
何処からどう見ても対面座…正面から抱き合っている形。
今度こそ本気で思考が停止した。
太股に感じる少年の小さな尻の感触。
肩に乗せられる丸い頭。
鎖骨に時折感じる吐息。


「…っじ、ジュード!?」


声が上擦ってしまったのは仕方がないと思う。
少年の予想外の行動に反応が遅れた。
それでも動ける上半身で仰け反れば、構わず脇へと強引に手を突っ込んできたジュードはそのまま俺の背中へと強引に腕を回す。
完成したのは、完璧に抱き合っている構図でした。


「えーと…、優等生?」

「………」

「…ジュードくーん?」

「………」


返事はない。
困惑と動揺と歓喜の訳わからない感情が渦巻く中、俺がしたことと言えば、
手を広げ何となく開いたコートの中に少年を包んでみることだった。

『いやいや、違うだろ!?』

そう心の中で突っ込むのだが腕の動きは止まらず、そのまま少年の背中へと手を回していた。
…これで図らずも自ら言い逃れ出来ない状況を作ってしまった訳だが、
それにしても
前から何となく気付いてはいたが、あまりにも少年の体がすっぽりと収まるものだから困惑よりも安心感や心地好さが勝ったのかもしれない。
気付けば自然と入っていた体の力がまるで口から抜けていくかように長い息を吐いていた。


「…なぁ、本当にどうしたんだ?」


最初に仕掛けてきた少年は、俺の胸元にしがみついたまま沈黙している。
しかし今度は無反応だった先程とは違い、文句の言葉の代わりになのか胴体に回す腕の力を強め更に抱きつかれた。
……なにこの以下略。
端から見た俺の顔は色んな意味で崩れているに違いない。
誰もいないし見てもいないのに、まるで視線を感じるかのように室内へときょろきょろと視線を彷徨わせてみる。
甘えるように頬を擦り寄せてくるジュードに、どう反応していいか分からない。


「…もしかして、俺に甘えたかった?」

「うん」


なーんて…と続けようとした言葉は、あっさりと肯定された事によって行き場を失った。
…そっかぁ。甘えたかったのかぁ…。
茶化すタイミングも失い意味のない母音で口籠もるが結局は沈黙した。
思わず途方に暮れた。
それと同時に少し心配にもなってきた。
俺も人のことは言えないかもしれないが、今日のジュードはやはり挙動不審なのかもしれない。
もし何か理由があってのことなら、それを解決しないことにはどうにもならないだろう。
かと言って、この少年は簡単には他人に悩みを吐露しない。
さてどうするか。と考えていると、もぞもぞと身動ぎするジュードに気付き緩慢な動きで視線を下ろした。


「…アルヴィンも…僕に甘えていいよ?」


拗ねたように鎖骨辺りに額をぐりぐりと押しつけスカーフに口元が埋まっている所為かくぐもった声で呟かれる声。
…あ、うん。ありがとな。と頭を撫でつつも、お手上げと言いたげに俺は天井を仰いだ。

『……まじで、これは、俺に、どうしろと…』

何かを試されている気がする。
誰に試されているのかは分からないが。
やはり何かあったのではないかと心配になるが……まぁ、それは追々と追及するとして、
とりあえず、少年の希望通りに抱き返すか。と、破顔した俺は大人しく胸元にすっぽりと収まっている少年を更に抱き締めた。
コートに包んだ下で更に少年が引っ付いている体の前側が妙に温い。


「…ここ、温かいね」

「ジュード君が子供体温だからじゃないかなぁ」


だってコートを着ていてもいつもは自分の発した体温からの熱しか感じないのに、今日はこんなにもぽかぽかと温かい。
思いの外時間が経過していたのか、先程までは当たらなかった陽射しが体の一部にかかり始める。
視線を向けた窓から差し込む陽射しの眩しさに、目を細めた。
こういうのを、何て言うんだったか…。
数秒考えたが、思いつかなかったので諦める。
腕の中には呼吸に合わせて上下する小さな体。
少し前から身動きしなくなった小さな体に、もしかしたら寝ているのかもしれないな。と思いながらも起こすような事はせず、逆にしっかりと抱え直した。
やっぱり抱き心地は温くて気持ち良かった。









end

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