その他

□昨日と今日の違い
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それは、思っていたよりも存外軽い音で
気付いたらすとんと落ちていた。


「俺、お前のこと好きかも」


長年の悩みがすっきりと解決したような清々しさ。
その解放感からか言葉がぽろりとこぼれ落ちた。
その軽さに驚愕するも、今更拾うような真似はせず
ただ、隣を歩く親友の反応だけは気になり
出来ればこのまま独り言として捨て置いてほしいと胸中で願うが、親友は躊躇いもせず拾い上げた。


「かも、なの?」

「……んー」


濁すべきかと一瞬考え、ふらりと視線が彷徨う。
覚悟が決まった一呼吸の間


「…いや、好きだ」


先程とは違い語尾を断定させると、何かがするりとはまる感覚。
なるほど
どうやら今まで噛み合っていなかったようだ。
ぴたりと落ち着いたそれに胸を撫で下ろす。


「僕もユーリが好きだよ」

「はは。定番ネタ、どうもな」

「そっちこそ、定番の勘違いをありがとう」


一瞬の間
思わず視線を向けた先。
静かにこちらを見つめる眼差しは柔らかい。
ぱちぱちと瞬き数回
なるほど
随分、遠回りをしていたようだ。
お互いに
ゆるりと視線を前方へ。
黙々と足を動かす。


「んで?結局どっちなんだ?」


足音に紛れるほどの小さな呟き。
隣を歩く親友は、またもしっかりと拾い上げた。


「返した筈だけど?…あぁ、それに対する返答は了承以外受け付けないからそのつもりで」

「返答も何も、俺はお前より先に答えを出してただろ」

「わざと曖昧にして茶化したくせによく言う」

「お前こそ今までそんな態度見せなかった癖に」

「そうかな?結構わかりやすい態度を取っていた気がするけど」

「うそつけ。絶対バレてない自信あるぜ、俺は」

「それは君もだよ。僕は全然気付かなかった」

「お前にだけはバレるわけにはいかなかったんだから、当たりまえだろ」

「僕だってそうだ」

「それもそうか」


話す声音はいつも通り。
そこに熱は感じない。
違うな
もしかしたら、ずっと熱は燻ったままで
じわじわと上がる熱のあまりの遅さに、ただ気付かなかっただけなのかもしれない。
風の唸る音色。
ゆらりゆらり、髪が攫われる。


「……で?言ってくれないの?」

「お前が先に言ったらな」

「君がもう一度言ってくれれば、これからは毎日だって惜しみなく言うつもりだよ」

「いや…、物理的に無理だろ」

「気持ちの問題だよ」

「そこは、一緒に暮らそうって言うところじゃねぇの?」

「そうかな、…そうかも。だったら、ユーリ一緒に暮らそう」

「まだ前提部分が解決してないだろうが」

「だってユーリが言ってくれないから…」


拗ねたような声音に軽い笑いが漏れる。


「言い出しっぺが先に言うべきじゃねぇか?」

「それなら、そもそもの言い出しっぺはやっぱり君になるな」

「そうだったか?」

「そうだよ」

「…ああ言えばこう言う」

「そっくりそのまま君に返す」

「ったく、……強情」

「強請ってるだけだよ」

「…好きだ」

「僕も好きだ」

「愛してる」

「僕もユーリだけを愛し続けるよ」

「……そっか」

「うん」


2つの足音のリズムが重なりあう。
燻る熱が微かに勢いを増し
ふらふらと不安定に揺らぎながらも、比重が反対側へと傾き始める。


「ずっと手を離さないから覚悟してね」

「…お前が離さない限りは、俺も握り続けててやるから安心しろ」

「それなら、尚更気合いを入れて握りしめておかないといけないな」

「…俺は逃げねぇよ」

「逃げないけど、目を離すとすぐにふらふらといなくなるよね」

「子供じゃねぇんだから…、……それに、お前に手を握られたままで離れるなんて無理だろ」

「そうかな。君が本気を出せば、容易く解けそうだけど」

「……だったら、あえて解かないでいる俺の気持ちを察しろよ」

「ふーん…?僕に都合よく解釈するけど、それでも?」

「……んなの、今更だな」

「…そうかな」

「……そうだよ」


合わせた歩調。
触れた指を絡ませる。
ことりと何かが動いた音が聞こえた。








end







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フレユリは、気付いたら恋人でした。的な関係が萌える。
 

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