その他

□似て非なるもの
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※とりあえず書いておこうと思ったアルジュ。
※多分、ラスボス戦手前くらい。
※この時点では、まだアルジュ未満。

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この感情を何と表せばいいのか。
辿った道筋が複雑すぎて、もはや元のかたちすらも思い出せない始末。
それでも、己はその感情の名前を知っていた。
正確には、知っていたはずだった。
それは、名前に見合ったとても純粋で綺麗で優しく可愛らしいかたちをしたものであったはずだ。
しかし、それを抱いた持ち主に似たのか、己の中に巣食うその形状はとてもじゃないが、あの可愛らしい名称に相応しいものではありえなかった。
歪んで捻れて曲がって折れて溶けて砕けて
気付けばそれは、不完全で歪なかたちのまま固まってしまい、単調な…けれども至極複雑なものとして落ち着いてしまっていたのだ。
多分、もうこれ以上変化はしないだろう、そのかたち。
伝えることすら己には許されていないので、持て余したそれは未だに異物として己の中に存在し続けていた。
吐き出したいのに吐き出せないのは自業自得だというのに、歪みきったそれは捌け口を求め奥底で蠢く。
もっと単純で簡単であれば話は違っていただろう。
けれど、紆余曲折を経て本来であれば両極端の存在であったはずのそれらは、気付けばごく自然に交じり合ってしまっていた。
今からでは容易に分離出来ない程に。

それでも
ベクトルがどちらかに傾いていれば良かったのだ。
あるいは、簡単に切り捨てられる程度の執着であれば。
そうすれば
少なくとも延々と悩み続け持て余すことにはならなかったはずである。
そんな身勝手な思考に、アルヴィンは鼻先で笑うと一蹴した。
結局何度考えたところで、必ず一つの答えにしか辿りつかないということを知っていたからだ。
知っていたからこそ、否定したかった。

だってアレは
自分が思い描くものとは、大きくかけ離れたものだったからだ。
誰が見ても、歪で嫌悪感を抱くようなものなのに
何故か不思議なことに、答えは一つしか浮かばない。
その過程がいくら複雑怪奇な経緯でもだ。

いいかげん諦めて認めたらどうだ?

そんな思考が囁く度に、アルヴィンは自嘲するように口元を歪ませる。
認めてはいるが、否定したい。
その矛盾した答えが、アルヴィンの全てだった。
けれど、それと同時にそれは己の中で唯一、嘘偽りなくはっきりとしていたものでもあった。
だから捨てられない。
けれど認められない。
要は、全てをなかったことにだけはしたくなかったのだ。
自分が彼へと向ける何らかの感情を


「……結局は、未練がましいってことなんだよな」


ぐだぐだと言い訳じみたものを並べてみたところで、その言葉に尽きるだろう。
今まで何百回と繰り返し出されてきた同じ結論に溜息混じりに肩を落とせば、それまで不規則に耳に届いていた紙の捲られる音とは違う衣擦れの音が背後から聞こえた。


「…何のはなし?」


独り言のはずだったのだが声が思いの外大きかったらしい。
先程までベッドの上で寛ぎながら膝の上に本を拡げていた少年は、すでに顔をあげてこちらへと顔を向けている。
その姿を、窓際に立ち室内へと背中を向けたままガラス越しに確認したアルヴィンは、少年の読書の時間を図らずも邪魔してしまったことに気付き、一瞬戸惑ったように体を揺らした。
しかし、男の言葉の先を促すように静かに待つジュードに少しの躊躇いの後ようやく体ごと室内へと反転させると、ガラスへと背中を預けた。


「…んー、色んなものをぐちゃぐちゃに混ぜてくっつけたら何になるのかって話」

「どういうこと?」

「俺にもわかんね」

「なにそれ」


軽く茶化すように肩を竦めれば、本格的に話を聞く体制を取ったジュードが本を閉じながらくすくすと笑った。


「要するに、色々なものを混ぜたら何になるのかってこと?」

「まぁ…そんな感じ」


実に曖昧な表現をしているにも関わらず、そこに触れることも追及することもしないジュードにアルヴィンは知らず胸を撫で下ろしていた。
聞かれたところで答えられないからだ。
そんなアルヴィンを余所に、ジュードはこめかみに指先を当てながら考えるように瞳を閉じた。


「うーん。アルヴィンは何になると思うの?」

「そうだな、…少なくとも、綺麗とか美しいなんて言葉は似合わないもの…かな」

「どうして?」


その答えが意外だったのか、きょとんとした顔を見せる少年にアルヴィンは苦笑いを浮かべた。


「何でも混ぜりゃいいってもんでもないだろ。レイアの料理とかが典型的な例じゃねぇか」

「あれは…、本人の発想と嗜好の問題だと思うけど」


例えで出した幼なじみの名前にか、はたまた彼女の料理を思い出した故なのか。
意味の計りかねる微妙な表情で半眼になったジュードは、そっと視線を逸らした。
その反応につられたアルヴィンもまた、美味しいものに美味しいものを足したらもっと美味しくなるに違いない!と宣ったかつての彼女の姿を思い出し、当時その発想に色んな意味で驚いたことも思い出しながら、こちらもまた微妙な表情を返した。
だって、元は個別に完結されていたものだ。
それを混ぜたところで、もうすでに完結されたものは別物へと変化し未完成のものとして成り立つと思うのだが彼女はそうとは考えないようだというのも、その時に知った。
要するに、彼女のなかではいたってシンプルな方程式しか存在しなかったのである。


「レイアの料理は、まぁ…あれ、だけど…、僕は選択肢の一つとして混ぜてみるのもありだと思うよ?」

「……そうか?」

「だってレイアの料理だって、何も考えずに混ぜてるから結果的に何て表現すべきか迷うような不思議な味のものが出来るんであって、分量とか混ぜるタイミングとかちゃんと考えれば、もしかしたら今までに食べたことのない美味しい組み合わせのものが出来ていたのかもしれないよね?」


ほら、料理は発明から生まれるとも言われてるし。
マーボーカレーなんてその成功例だと思うんだ。

やや斜め上を見上げながらのジュードの言葉に、アルヴィンもまた同じように視線を天井へと向けながらこぼす。


「そう言われれば、確かにそうかもなぁ」

「だから、さっきの話だけど。僕は無限のものになると思うよ」


聞こえた不思議な単語に、天井へ向けていた視線を再びジュードへと下ろす。


「無限?」

「そう。結局はその人の捉え方次第だからね。それを綺麗だと思うのか不味いと思うのかつまらないものと一蹴するのか。人の感性で完全に万人に共通されたものなんて、この世にはないと僕は思うから」


大雑把な括りでなら万人に共通するものはあるだろうね。
でも、それを更に詳細な分類で分けていったら、似たようなものはあっても全く同じものは有り得ないんじゃないかな。
幸せだって、その人の育った環境や境遇によって感じかたや捉え方に誤差は必ずあるはずだし。
例えば、人種は一緒でも個々が違うようにね。

そう続けるジュードに、アルヴィンはそういう考え方もあるか。と頷く。




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